花と送粉者、持ちつ持たれつ

2020年10月17日 ALL生物
コアオハナムグリ

前回はいろいろな花粉媒介者についてお話しました。今回は、送粉者である動物と植物の関係をもう少し掘り下げて見てみます。

花を見れば送粉者はわかる?

モチツツジに訪れるオオスカシバ

モチツツジに訪れるオオスカシバ

花の見た目と、送粉者には何らかの関係はあるのでしょうか。答えは、「そこそこある」です。送粉生態学の分野では、以前は送粉シンドローム(Pollination Syndrome)と呼ばれる考え方が広く受け入れられてきました。(「シンドローム」と言っても、病気ではありません。)花の色や形、大きさと、送粉者には強い関係があるという考え方です。

ヒメスズメバチ

ヤブガラシに訪れるヒメスズメバチ

例えば、赤くて、花筒が長い花はチョウが送粉者で、色がくすんでいて花筒が短い花はカリバチが送粉者であるというような具合です。しかし、近年、送粉シンドロームで言われるような植物と送粉者の関係は、それほど強くないということが様々な研究で示唆されています。1種の植物であっても幅広い分類群の生き物が訪れますし、逆に、1種の昆虫であっても幅広い分類群の植物に訪れます。

ツマグロキンバエ on コデマリ

コデマリに訪れるツマグロキンバエ

そうは言っても、ハエの仲間は、キク科のように平べったい形の花に訪れることが多いですし、花筒が長い花にはチョウや鳥が訪れることが多いです。花の色や形から完璧に送粉者を予測することはできないものの、多少は推定できると考えて良いように思われます。

植物と昆虫は仲良し?

ノウゼンカズラ

ノウゼンカズラの花。しばしばカリバチが訪れます。

これまでお話したように、多くの植物の花には昆虫が訪れます。では、植物と昆虫は仲良しの関係であるかと言えば、そんなことはありません。植物は、好き好んで花蜜を出しているわけではありませんし、昆虫も好き好んで花粉を運んでいるわけではありません。植物は、昆虫をおびき寄せるために、花蜜や多量の花粉を生産します。できることなら、なるべく少ない花蜜や花粉で送粉者を招きたいというのが、植物側の立場です。

ハナバチ on コデマリ

コデマリに訪れるハナバチ

一方、昆虫の方は、植物が提供する報酬を手に入れるために花に訪れているだけであって、積極的に花粉を運ぼうとして運んでいるわけではありません。報酬を手に入れるために訪れた花で、体に偶然花粉を付着させ、その花粉を別の同種他個体の柱頭に偶然付着させた際に、結果として送粉することになっているにすぎないのです。一見仲睦まじく見える花と昆虫、実は、互いに上手く利用しあっている関係なのです。