前回は、クロアナバチの巣作りについて、地上での観察結果をお話しました。今回は、地中にどのような穴を作っているのか、また、どのくらいの時間がかかるのかなどについて文献情報をもとにお話したいと思います。
この記事の目次
クロアナバチの巣作り
南インドでクロアナバチ Sphex argentatus の47個体のメスが作った72個の巣について調査が行われました。その研究より明らかになったクロアナバチの巣の中の構造と、作るのにかかる時間について紹介します。
まず、地中の巣の中の様子を以下に図示します。
巣は、なんと全長50センチほどもあります。巣の奥の方に、卵を産み付けた獲物を入れる部屋(房室)が1〜5つほど作られます。一つの部屋には、4〜7個の獲物が入れられ、獲物の76%はオスのササキリの仲間とのことでした。
巣を作る場所の探索から巣の入り口を完全に閉じるまでの全行程は、平均220分で終了します。全行程の41%の時間(平均87分)を穴を掘ることに使い、24%(平均48分)を狩り、12%(平均23分)を巣の入り口を完全に閉鎖するのに使用します。
餌の種類や餌を捕るのにかかる時間は、地域によって大きく変動しうると考えられます。日本では、ササキリが含まれるキリギリス科に加え、コオロギ科の昆虫も捕ることが観察されています。
ダミーの穴の意味
ダミーの穴は、幼虫に寄生する昆虫を騙すためにあるという説があります。しかし、寄生バエの寄生率がダミーの穴の存在によって下がるわけではないという研究結果があります。それを受け、ダミーの穴は、幼虫を食べる地上徘徊性のアリやアリバチ科の昆虫に対して効果があるのではないかという説もあるのですが、検証はされていないようです。わずか数十分後には帰ってくる巣穴にきちんと蓋をしてから出ていくことから、親の不在中に他の昆虫に侵入されるリスクは非常に高いのだろうと推察されます。わざわざダミーの穴を掘るのは、侵入リスクを下げるためである可能性は大いにあると考えられます。一方、外出時にメインの穴を塞ぐために必要な土を得るために、別の穴を掘っているという考えもあります。しかし、近くにはメインの坑道を作る際に掘り出した砂は潤沢にあるはずで、改めて硬い地面を削って蓋用の土を用意するというのも、いまいち納得がいきません。やはりダミーの穴そのものに何らかの役割があるものと考えるのが妥当であるように思われます。
【参考文献】
Belavadi V V. & Mohanraj P (1996) Nesting behaviour of the black digger wasp, sphex argentatus fabricius 1787 (hymenoptera: Sphecidae) in South India. Journal of Natural History, 30(1): 127–134.