いつでも派手なツマグロヒョウモン
チョウ目の成虫は、蝶類を中心によく目立つ派手な色彩を持つ種が少なくありません。また、キアゲハやホタルガなどのように幼虫がよく目立つチョウ目昆虫もいます。しかし、幼虫、蛹、成虫のどのライフステージでも人目を引く特徴をもったチョウ目昆虫は、そう多くはありません。今回は、いつでも派手なツマグロヒョウモンのお話です。
ツマグロヒョウモンとは?
ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius は、タテハチョウ科ツマグロヒョウモン属のチョウです。アフリカ北東部から東アジア、オーストラリアの熱帯から温帯に分布します。日本では、沖縄から本州にかけて分布します。1970年代まで近畿地方以西でしか見られませんでしたが、急速に分布域を拡大し、1990年代から2000年代にかけて関東地方に進出しました。現在は、関東でも普通に見られます。草原や公園、人家周辺に生息します。
ツマグロヒョウモンの成虫
ツマグロヒョウモンのメスの柄は、毒蝶のカバマダラ Danaus chrysippus に擬態していると言われています。
日本でカバマダラが生息するのは、基本的には南西諸島のみですので、国内の多くの地域では擬態がその役割を果たしていないように思われます。ただ、カバマダラが生息する南西諸島などの南方の地域から九州以北に渡る夏鳥に対して、擬態の効果が発揮される可能性は否定できません。成虫は4月〜11月頃に見られます。
ツマグロヒョウモンの幼虫
ツマグロヒョウモンの幼虫は赤い棘を持っており、いかにも毒を持っていそうですが、実は毒はありません。棘はフニャフニャしており、触っても痛くありません。食草は、スミレの仲間です。パンジーにもよくつくため、都市部でも食草に困りません。しばしば幼虫で越冬し、年に4-5回発生するため、一年中見られます。
ツマグロヒョウモンの蛹
ツマグロヒョウモンの蛹の地の色は茶色ですが、金属光沢のある突起を持ちます。同じタテハチョウ科のチョウの中には、同様の突起を持つものが何種かあります。タマムシやキンバエなど他の昆虫も金属光沢を有します。それらの昆虫の天敵である鳥が、光沢のあるものを避ける傾向があることが知られています。しかし、ツマグロヒョウモンの蛹が金属色の突起により、実際に鳥からの捕食を免れているのかについてはわかっていません。ツマグロヒョウモンは蛹で越冬する場合もあるため、冬期にもこの蛹が見つかることがあります。
ツマグロヒョウモンがいつでも派手な理由
幼虫は、いかにも毒々しい色と痛そうに見える棘で、
蛹は、地味な茶色で周囲に溶け込み、もし見つかったときは鳥が警戒する(?)金属光沢を持つことで、
成虫(メス)は、毒蝶カバマダラへの擬態することで
捕食を回避しているのかもしれません。