みんなでくるくるハシビロガモ

2024年1月27日 生物

ペリカンが複数匹集まって追い込み業のような採餌方法をとることを以前お話しましたが、冬に日本にやってくるハシビロガモも複数羽集まることによって効率よく餌を捕ります。どんな方法で餌を得るのでしょうか?

ハシビロガモとは?

ハシビロガモ

ハシビロガモ

ハシビロガモ Anas clypeata はカモ科マガモ属のカモです。体長40から55cm、体重0.5から1.1kgほどの大きさで、マガモやカルガモよりは少し小さいです。くちばしが長く横に広がっており(これが名前の由来。「ハシ」はくちばしの意。)、遠目にも他のカモと体のバランスが違うことが分かります。繁殖地は、ユーラシアから北アメリカの中緯度から高緯度地域で、冬季にアフリカ北部、インド、中国南部、日本、北アメリカ大陸南部に飛来します。水田、湿地、河川、干潟、湖、海岸の入江など水辺に生息します。

ハシビロガモの採餌方法

ハシビロガモ

採餌中のハシビロガモ

ハシビロガモは水面に浮遊する動物プランクトン(ワムシやケンミジンコなどの0.3mmから2.2mmほどの大きさの微小甲殻類)を食べます。幅の広い大きなくちばしを水面に浅くつけ、くちばしの根本からその半分くらいまでの縁に沿ったブラシ状の構造で動物プランクトンを濾し取ります。くちばしの先の方の広がった部分にはブラシはついておらず、水を前から吸い込み、くちばしの根元付近から濾過した水を出しながら濾し取る仕組みになっています。フラミンゴも動物プランクトンを濾し取って食べますが、フラミンゴの場合、あまり場所を変えずに口を開けたり閉めたりして採餌します。しかし、ハシビロガモは泳ぎながら口先を水面につけ、広範囲に移動しながら餌を集めます。

複数羽でくるくる回るハシビロガモ

ハシビロガモ

ハシビロガモのオス

ハシビロガモは、複数羽で集まることにより採餌効率を上げる技を持っています。その技とは、みんなで同じ場所を中心にしてくるくる回ることです。複数羽で回ることにより、水流が生まれ円の中心に動物プランクトンが集められます。この水流は、円の中心で下から上へと流れる水流であり、水の底にある餌資源まで水面に集める効果があると考えられています。

動物プランクトンは、水の中から動物プランクトンを濾し取るための特殊な構造がないと食べることができません。そのため、一般的なカモは動物プランクトンを食べることはできません。ハシビロガモは、独自のくちばしを発達させたことにより、他のカモが利用することができない餌資源を独占的に取ることができると考えられます。しかも動物プランクトン専食というわけでもなく、動物プランクトン以外にも水生昆虫や水草など、他のカモが食べるものと同じものも食べられます。繁殖地では、主に動物プランクトンではなく水生昆虫を食べているという報告もあります。つまり、ハシビロガモは特に餌資源が少ない冬季に、動物プランクトンを食べることで、他のカモと餌資源を奪い合うことなく生きることができると考えられます。

富栄養化した環境を好むハシビロガモ

ハシビロガモ

ハシビロガモのメス

水質が富栄養化した湖沼では、植物プランクトンが増え、それを餌にする動物プランクトンも増えます。そのため、ハシビロガモは富栄養化した湖沼を好んで採餌場所に選ぶ傾向があると考えられています。また、ケンミジンコの現存量が多い時期にハシビロガモの飛来数が増えるという観察結果も報告されています。

ハシビロガモ

飛翔中のハシビロガモ

一般に、富栄養化した環境では、水がにごって水底に光が届かないため水生植物が育ちにくいです。さらに、動物プランクトンが増加することで水中の酸素量も少ない状態にもなるため、魚も少なくなり、多くの生き物が生息しにくい環境になると考えられています。ハシビロガモは普通のカモ類が食べられるものに加え、動物プランクトンも食べられることにより、湖沼の栄養状態に関してより幅広い環境で生息可能であると考えられます。

[参考文献]

松原健司 (1996) ハシビロガモ Anas clypeata の嘴の形態と生息地選択性及び食性との関係. 我孫子市鳥の博物館調査研究報告, 5(1–83).