むしってなに?
虫の代表といえば昆虫ですが、当然、虫 = 昆虫ではありません。今回は、「虫」という言葉についてのお話です。
中国で「虫」はヘビのことだった
古代の中国では「蟲」という漢字がすべての動物を示す文字として使われており、人は裸蟲、鳥は羽蟲、哺乳動物は毛蟲、魚や爬虫類は鱗蟲、カメ、甲殻類、貝類が介蟲と表現されていました。一方、「虫」という漢字は「キ」と発音し、ヘビの象形文字、特に毒ヘビを示す文字でした。しかし、後に「虫」が「蟲」の略語として使われるようになり、発音ももともと「蟲」に対してついていたチュウという音が、「虫」に対して使われるようになりました。また、意味も、生物全般を表すものからヘビなどの小動物を指す語になりました。
日本で「むし」とは何を指していたのか。
大陸の文化が入る前の日本で使われていた「むし」という言葉が、どの範囲の生物を指していたのかについては分かりません。
江戸時代の1712年頃に、中国の明の時代に作られた「三才図会(さんさいずえ)」に倣って、日本で「和漢三才図会」という百科事典が作られました。その中では、小さな生物のうち足のあるものは「蟲(チュウ)」、無いものは「豸(チ)」と言うと書かれています。
日本の「むし」という言葉には、もともと「蟲」という漢字があてられていました。しかし、1946年に告示された当用漢字表で「虫」という漢字が現在の「むし」として定められたため、「蟲」が使われることはあまりなくなりました。
現在の日本での虫とは?
現在、虫と呼ばれる生き物には、昆虫綱に分類される昆虫、鋏角亜門のサソリやクモなど、甲殻亜門のダンゴムシ、多足亜門のムカデ、ヤスデなどの節足動物が含まれます。また、江戸時代には「豸」として分けられていた足のない動物である扁形動物のプラナリアやコウガイビル、サナダムシ、環形動物のミミズや軟体動物のカタツムリなども「虫」とすることが多いです。
つまり、現在、虫と言われる生き物は、昆虫綱の生物と、鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類以外の主に地上で出会う小さな動物といえます。
【参考文献】
寺島良安. 1715. 和漢󠄁三才圖會, 卵生蟲, 52巻. https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/listPhoto?LANG=default&BID=F1000000000000037201&ID=M1000000000000046595&TYPE=