派手に生きる蛾、フクラスズメ

2019年9月16日 ALL生物
フクラスズメの幼虫

フクラスズメという蛾をご存知でしょうか。ちょうど9月ごろは大きく育った幼虫の大群がよく目撃される時期です。この文章を読んだあと、どこかでたまたま見つけたら、ちょっかいを出してみたくなるかもしれません。

フクラスズメとは?

フクラスズメ

フクラスズメの成虫 Photo by 孫鋒 林 from flickr

フクラスズメは、スズメという名がついていますが、スズメガの仲間ではなく、ヤガ科の蛾です。成虫が、冬にふっくらと丸まっているスズメの姿に似ているところから、このややこしい名前がつけられたと言われています。年2回、夏と秋に成虫が発生し、成虫の姿で越冬します。幼虫の食草は、イラクサやカラムシなどのイラクサ科の植物です。成虫は、熟した果実の汁や、樹液を吸います。夜に雑木林のクヌギの木の樹液を吸っているのを発見されることが多いようです。

フクラスズメの派手ポイント1 —見た目が派手—

フクラスズメの幼虫

フクラスズメの幼虫

成虫は、スズメに似ていると言われるところからもわかるように、茶色で地味なのですが、幼虫は、とても派手な色をしています。動きの遅いイモムシ型の幼虫の多くは、鳥の格好の餌になりますが、多くの幼虫は、大きく分けて3つの戦略で捕食を回避します。一つは、天敵に見つからないようにする方法です。この戦略には、モンシロチョウの幼虫やシャクトリムシのように緑色や茶色の隠蔽色を使って、見つかりにくくする方法とアゲハチョウの若齢幼虫のように鳥の糞に擬態して、一見幼虫に見えないようにする方法があります。もう一つの戦略が、毒や不味い物質を体に作り、体色を派手にすることによって、天敵に自分を印象づけ、不味いことを覚えてもらう方法です。フクラスズメは、この後者の戦略をとることにより、天敵からの捕食を回避しています。見た目は、毒々しく、長い毛も生えているため、いかにも、刺されそうですが、触れても無害です。3つ目は毒を持つ生き物に外見を似せる戦略です。ベニスズメというスズメガの仲間の幼虫は、見た目を蛇に似せることで捕食を回避していると考えられています。

 

フクラスズメの派手ポイント2 —動きが派手—

ゲッダン!な感じのフクラスズメの幼虫

これがフクラスズメの最もインパクトのあるポイントです。なんと、幼虫は、刺激が与えられると体をブンブン振り回します。この動きがどのような天敵に対して、どのように有効に働くのかはよくわかりませんが、すごいインパクトなのは確かです。少なくとも、この動きをしていた幼虫を食べてみたらとても不味かった、という鳥の学習には使われそうです。また、一匹がこの動きをすると、この振動を感知して近くにいる幼虫までみんなこの動きを始めます。すると植物全体が振動します。不自然な動きに驚いて、天敵である鳥が逃げてもおかしくありません。

 

フクラスズメの派手ポイント3 —大量に発生−

フクラスズメの幼虫

同じイラクサに付く、複数のフクラスズメの幼虫

この大きくて派手なフクラスズメの幼虫は、よく大量に発生します。食草であるイラクサ科の植物を大挙して短時間で食べ尽くしてしまいます。畑の作物を食い荒らすなら、とうの昔に私達に目の敵にあっていたのでしょうが、食べるのがイラクサとあっては、どちらかというと重宝されてきた存在かもしれません。近くのイラクサを食べ尽くすと、フクラスズメの幼虫の大群は、別の餌場を求めてあちらこちらへ地上を徘徊し始めます。派手でよく目につく上に、住宅地付近でも発生し地上をウロウロすることもあるようで、そんなときは、なかなかのインパクトです。ですが、触れても、刺されないので害になることはありません。人の作物となっている植物を食べることもなく、なにか悪さをすることはほとんどないので、温かく見守りましょう。

フクラスズメのダンス、怖いもの見たさで見てみたくなったら、ちょうど良い時期(9月現在)ですから、カラムシやヤブマオなどのイラクサ科の生えている所を是非探してみてください。