今回は、前回紹介したイチョウと並んで原始的な植物と言われるソテツについてのお話です。ソテツには、他の多くの植物には見られない変わった特性があります。なんと、花が発熱するのです。
この記事の目次
ソテツとは?
ソテツは、裸子植物門ソテツ綱ソテツ目ソテツ科の植物です。ソテツ科の植物は、世界に100種ほど知られており、熱帯、亜熱帯に分布します。ソテツという和名がついている種は、Cycas revolutaであり、九州(宮崎県以南)、沖縄、台湾、中国南部が分布域です。ソテツの仲間もイチョウと同じ、精子を作る珍しい種子植物です。ソテツは、1億5千万年前の中生代中期に最も繁栄し、その形態や、精子を作るなどの生殖様式に原始的な特徴を残しています。また、根に根粒があり、藍藻類を共生させて窒素固定を行うため、栄養の乏しい土地でも生育することができます。花期は6月-8月で、雌雄異株です。
花が発熱する!?
1987年にアメリカのWilliam Tangによって10属43種のソテツの仲間について調べられました。その結果、以下のことが明らかになりました。- 43種中42種のソテツの雄花が発熱した。
- 発熱ピーク時の平均発熱温度は、一番小さい種で外気+0.1℃、一番大きい種で+12.3℃
- 雌花については、少なくとも調査された約20種についてはどれも雄花より発熱温度が低く、4種は全く発熱しなかった。
- 雄花や雌花の大きさが大きいほど、発熱温度のピークは高く、また発熱時間も長かった。
- 雄花では、花粉を放出するタイミングに、最も発熱温度が高くなった。
- 発熱がもっとも大きくなる時間帯は、夕方ごろであった。
- 雄花には雌花に比べ多くのデンプンが貯められている。→ デンプンを使って熱を作っている可能性がある。
また、2019年6月には、日本に唯一自生するソテツの仲間であるソテツ(Cycas revolute)の雄花に対してサーモグラフィーを使った研究が行われました。
その結果、以下のことが明らかになりました。
- 雄花は、周囲に比べて11.5℃高くなった。
- 発熱組織には、大きなミトコンドリアがあり、ミトコンドリアは細胞呼吸を行う場であるため、呼吸をする過程で発熱していることが示唆された。
なお、発熱する花を作る植物には、他にスイレン科、サトイモ科、ヤシ科などの植物が知られています。
何のために発熱するのか。
何のために発熱するのかについては、William, 1987 では、花粉を運んでくれる昆虫を呼ぶための揮発物質(匂い成分)をより効果的に拡散するためだと考察されています。しかし、温度違いによって、匂い成分の揮発量が異なるのかどうか、また、誘引される昆虫の質や量が変わるのかどうかについては研究がなされていないので、本当にこの仮説が正しいのかどうか、検証が必要です。
一方、熱そのものが、昆虫に対する報酬になることも知られています。マルハナバチでの実験では、温度だけが異なる蜜を2つ用意した場合、温度の高い方の蜜を好んで吸ったということが報告されています。もしかすると、ソテツも暖かいということだけで、訪花昆虫に魅力的な花になっている可能性も考えられます。ですが、日本の自生種であるソテツの花期は、6月であり、暖かい季節であるため、その時期であっても熱が昆虫の報酬になりえるのかどうか、疑わしいところです。
1億年以上も昔からその姿を変えずに生き残ってきたソテツには、まだまだ興味深い謎がたくさん残っています。
[参考文献]
Tang W. Heat Production in Cycad Cones. Bot Gaz. 1987;148:165-174.
Ito-Inaba Y, Sato M, Sato MP, et al. Alternative Oxidase Capacity of Mitochondria in Microsporophylls May Function in Cycad Thermogenesis. Plant Physiol. 2019;180:743-756.