ネバネバ地獄を制したモチツツジカスミカメ

2020年5月16日 ALL生物

前回のブログで、モチツツジのネバネバに多くの昆虫がくっついて死んでしまうことをお話しました。しかし、ネバネバ地獄を克服できた者にとって、そこは、次から次へと身動きが取れなくなった獲物が手に入る天国のような場所です。今回は、そんな天国を手に入れたモチツツジカスミカメのお話です。

モチツツジカスミカメとは?

モチツツジカスミカメの幼虫

1993年に発見されたカスミカメムシ科の昆虫です。モチツツジの上でしか報告がありません。そのため、分布もモチツツジの分布と完全に重なっており、本州中西部から四国にかけて生息しています。モチツツジカスミカメがモチツツジにくっついて死んだ昆虫に口吻を差し込んでいる様子がよく観察されており、それらの昆虫から栄養を得ていることが報告されています。

モチツツジカスミカメの幼虫

昆虫に口吻を差し込むモチツツジカスミカメの幼虫

また、モチツツジにも口吻を差し込み栄養を得ている雑食性の昆虫です。

どうやったら見つけられるの?

体長は、成虫でも4.5mmほどと小型であり、体色も緑色であるため、モチツツジの上ではあまり目立ちません。ですが、奈良で5月中旬に私が探した際は、10花調べれば若虫が1,2匹は見つかるほど個体群密度が高く、すぐに何匹も見つかりました。
特に、昆虫がたくさん捕まっている萼や花を支える茎の部分でよく見つかる気がしますが、葉の上を歩いていたりもします。比較的腺毛が短いせいか、花びらの根本と萼との隙間に潜んでいるのも何度か見ました。

モチツツジカスミカメの幼虫

花びらと萼の間に潜むモチツツジカスミカメの幼虫

幼虫は、パッと見た感じが、アブラムシのように見えるため、これまでアブラムシだと思っていたものがモチツツジカスミカメだったということがあるかもしれません。驚かせるとクモのように、非常に素早く動くため、アブラムシではないことがわかります。

どうしてモチツツジカスミカメはモチツツジ上で動けるのか。

モチツツジを触ってみたことがある人ならご存知かと思いますが、モチツツジは捕らえられた昆虫の生還が絶望的なほどネバネバしています。その上を歩ける昆虫がいるなんて、全く想定できないネバネバ地獄です。どのようにモチツツジカスミカメがモチツツジ上を移動しているのか観察してみました。

腺毛のついた葉の上を歩くモチツツジカスミカメ

この動画から、長くて細い脚のおかげで、歩行時に体があまり粘着物質に接触しないようになっているように見受けられます。

また、モチツツジカスミカメの体には、まったくモチツツジの粘着物質がくっつかないわけではなく、腺毛上で突くとすぐに動けなくなってしまいます。以下の動画では脚が粘液で引っ張られてしまっている様子が見られます。しかし、数分から数時間置いておくとなぜか、そのネバネバ地獄から脱出しているのです。

前脚に粘着物質がついたカスミカメ

これらのことから、通常時は、細くて長い脚を巧みに使って、粘着物質になるべく触れないようにして歩き、偶発的に粘着物質が体についてしまった場合でも、時間をかければ、何らかの方法で粘着物質を体から外す手段を持っていると推察されます。