セイヨウミツバチはどうして野生化しないのか

2019年8月18日 ALL生物

最近、都会のビルの屋上にミツバチの巣が設置されたというニュースをよく見かけるようになりました。多くの場合、はちみつ用に育てられるミツバチは、セイヨウミツバチであり、日本の在来種ではありません。日本各地で飼育されているにもかかわらず、セイヨウミツバチは、野生化することはありません。どうしてでしょうか。今回は、ミツバチについてのお話です。

ミツバチとは?

ミツバチ科ミツバチ属に属する昆虫を指し、世界には11種います。日本に生息する野生種は、トウヨウミツバチ Apis cerana の亜種であるニホンミツバチ Apis cerana japonica のみです。日本では、ニホンミツバチの他に、セイヨウミツバチ Apis mellifera が野外でよく観察されます。日本でセイヨウミツバチが最初に導入されたのは、明治時代です。導入した亜種は、イタリア亜種である Apis mellifera ligustica で、アメリカから導入されました。セイヨウミツバチは、ニホンミツバチよりも飼育が容易です。そのため、蜜の採集や作物の花粉の受粉用に飼育されているミツバチのほとんどがセイヨウミツバチです。世界的にも、利用されているミツバチのほとんどがセイヨウミツバチで、特に、Apis mellifera ligustica がよく用いられます。

 

どうしてセイヨウミツバチは、ニホンミツバチよりも飼育しやすいのか?

セイヨウミツバチの巣箱

セイヨウミツバチの巣箱

セイヨウミツバチは、一度巣を形成すると、少々環境が悪くても粘り強く同じ巣を使い続ける傾向があります。一方、ニホンミツバチは、巣の周りに食べ物がなくなったり、気温が変化したり、巣箱を何回も開けられるといったストレスが与えられると、みんなで別の巣に引っ越ししてしまいます。養蜂家にとっては、ニホンミツバチの飼育は、急にハチがいなくなってしまうリスクを負うことになります。また、一般的に、セイヨウミツバチの方が一つの巣から取れる蜜量が多いのも利点です。

 

セイヨウミツバチが野生化しないわけ

蜂球

蜂球 Photo by Takahashi [CC BY-SA 2.1 jp], via Wikimedia Commons

明治時代から養蜂家に好まれ、日本各地で飼育されてきたセイヨウミツバチですが、日本のほとんどの地域でセイヨウミツバチが野生化していません。セイヨウミツバチとニホンミツバチは、見た目も、生態も大きくは変わらないのですが、セイヨウミツバチは持っておらず、ニホンミツバチが持っている技があります。日本でのミツバチの生存にとって、最も驚異になっていると考えられているのが、スズメバチの仲間によるハンティングです。スズメバチは、ミツバチの成虫を食べるだけでなく、たった数匹でミツバチの巣に壊滅的な攻撃を加え、巣の中の幼虫をも捕らえて食べることがあります。このスズメバチに対抗する手段が、ニホンミツバチだけがもっている技、高温になる蜂球です。蜂球は、名前の通り、複数のニホンミツバチが、スズメバチを取り囲み、ハチの団子になった状態です。一匹のスズメバチを取り囲むために400匹ほど集まったニホンミツバチは、それぞれ胸の筋肉を震わせて体温を上昇させることによって、蜂球の中心部分を46℃以上にします。スズメバチの致死温度が約45℃、ニホンミツバチの致死温度が49℃であることから、スズメバチだけを熱で殺すことができます。また蜂球内の二酸化炭素濃度は、外気よりも遥かに高く、そのことも、スズメバチを短時間で殺すことに寄与していると言われています。近年、セイヨウミツバチでも、稀に蜂球が見られることが明らかになりましたが、セイヨウミツバチの蜂球は、中心部分の温度がニホンミツバチよりも上がらず、スズメバチの致死温度に達しないことが多いようです。

セイヨウミツバチの巣を狙うキイロスズメバチ

セイヨウミツバチが野生化した島

セイヨウミツバチは、日本のすべての地域で野生化していないわけではありません。小笠原諸島には、スズメバチが生息しておらず、セイヨウミツバチが野生化しています。セイヨウミツバチは、多くの種類の植物を利用できる優秀な送粉者である一方、在来のハナバチ類の餌資源を奪ってしまうことで、それらハナバチ類への影響が懸念されています。こういったスズメバチがいない地域への、セイヨウミツバチの導入は、自然生態系に多大な影響を与えてしまう可能性があることを注意をしなければなりません。