キンモクセイは良い香り?強い香りの目的とは。

2019年10月25日 ALL生物

街を歩いているとどこからともなく強い香りがしてきて、近くにキンモクセイが植えられていることに気がつく、そんなことが多々あります。この強い甘い香り、一体何のための香りなのでしょう。今回は、そんなやたらと存在感の強い匂いを放つ花、キンモクセイのお話です。

キンモクセイとは?

キンモクセイの雄花

キンモクセイの雄花

キンモクセイは、モクセイ科モクセイ属の植物でモクセイOsmanthus fragrans の変種Osmanthus fragrans var. aurantiacusに分類されます。常緑の植物で、原産国は中国です。日本には、江戸時代に持ち込まれ、本州の東北南部以南で広がりました。キンモクセイは、雄花しか付けない株があり、雌花もつける両性株に比べて雄花のみの株のほうが花つきが良いです。そのため、日本には、雄花しか付けない株だけが持ち込まれ、挿し木や取り木で日本中に広められました。

キンモクセイの花には、どんな昆虫がやってくるの?

あんなに強い香りを出す花を大量につけて、花に相当なコストを払っているように見えるキンモクセイですが、私はキンモクセイの花に昆虫がやって来ているのを見たことがありません。研究者の間でも、訪花昆虫があまり来ないという印象が持たれているようです。日本で昼間に行なった研究では、チョウの仲間は一種も訪れず、ハエやハチの仲間がキンモクセイに訪れるという結果であったようです。

キンモクセイの原産国である中国で、モクセイの花を調べた研究でも、日本と同様に、ハエやハチの仲間が訪れ、こちらもチョウの仲間は訪れないという結果でした。また、限られた種ではなく、幅広い分類群のハエやハチがやって来たことも観察されました。

一般に、強い匂いを出す植物は、夜に昆虫を呼ぶことも多いため、夜の訪花昆虫についてのデータは重要ですが、キンモクセイについて夜に行われた研究はほとんどないようです。夜には、昼とは異なった昆虫が訪花している可能性が考えられます。

モンシロチョウは、キンモクセイの匂いが嫌い!?

キンモクセイ

キンモクセイの花の匂いの成分の一つに、モンシロチョウが、忌避する成分(γ―デカラクトン)が含まれていることが明らかになっています。花は、花粉を運んでもらうために、昆虫を呼びます。つまり、花粉を運ぶ能力のない昆虫がやってきても、蜜を取られてしまうだけで植物にとっては、損にしかなりません。このため、植物は、自分の花粉を運ぶのに適した体の構造や行動パターンを持った昆虫だけが自分の蜜を利用できるように、花に工夫を凝らすことがしばしばあります。例えば、ツツジは花蜜を細くなった花の奥の方貯めています。そのような構造であるため、長い口吻を持ったチョウにとってはツツジの花蜜を得ることは容易ですが、口吻が短い昆虫は蜜に到達することが困難です。一方、キンモクセイの花は、そのような、奥にすぼまった構造は持っていないため、構造的には、様々な昆虫が簡単に蜜に到達できるつくりであるといえますが、揮発性の化学物質、つまり匂いを出すことによって、訪花昆虫の選別を行っているものと考えられます。今までのところ、キンモクセイの匂いの忌避効果が明らかになったのは、モンシロチョウに対してのみです。その他の分類群の昆虫に対する忌避効果は未だ分かっておらず、キンモクセイの送粉生態を解明するには、明らかにしなければならないことがたくさんあります。

まとめ

  • キンモクセイの花は、少なくとも日本の昼行性の昆虫に対して強い誘引効果はない可能性が高い。
  • キンモクセイの花には、原産国の中国でも、特定の昆虫種ではなく、幅広い分類群の昆虫種が訪花したことが観察されている。
  • 日本でも中国でも、キンモクセイの花の主な訪花昆虫は、ハエやハチの仲間であると考えられる。
  • キンモクセイの花の匂いには、一部の昆虫を忌避させる成分も含まれる。

 

参考文献:
Ômura, H., Honda, K., & Hayashi, N. (2000). Floral Scent of Osmanthus fragrans Discourages Foraging Behavior of Cabbage Butterfly, Pieris rapae. Journal of Chemical Ecology, 26, 655–666.