他の植物が生きられないような暗くて栄養の少ない環境でも元気に生きるヤツデは、日本で庭木として重宝されてきました。葉が特徴のある形をしているため、街でも森でも存在感のある植物です。今回はそんな身近な植物、ヤツデのお話です。
この記事の目次
ヤツデとは?
ウコギ科ヤツデ属の植物です。ヤツデ以外のヤツデ属の植物は、小笠原諸島に分布するムニンヤツデと台湾に分布するタイワンヤツデの2種のみです。ヤツデは日本固有種で、分布域は福島県以南から沖縄までです。ヤツデ属の植物の分布は、世界的には非常に狭い地域に限られています。
ヤツデ Fatsia japonica は、ヤツデという名がついていますが、葉の切れ込みは、9裂であることが多いです。テングノウチワとの別名もあります。常緑の低木で、高さは2~4mほどになります。
関西以南の海岸近くの森林では、自生しているものがよく見られます。一日に2時間程度日が当たれば生育出来るため、他の庭木では生育出来ない日当たりの悪い場所に用いる庭木として重宝されます。また、とても丈夫であることも庭木として好まれる理由になっています。
冬期に花を咲かせるヤツデ
花期は、11月〜1月です。華美な花弁があるわけではありませんが、ピンポン玉くらいの大きさの小さな花の集まりを数十個一塊にして咲かせるので、結構目立ちます。
真冬に花を咲かせる珍しい植物です。真冬に咲く花でありながら、送粉を昆虫に頼っています。真冬は訪花性昆虫の活動が少ないため、潜在的な送粉者が少ないです。ですが、開花している他の植物が少ないため、他の植物と訪花昆虫をあまり取り合わずに済みます。あまり多くの蜜を訪花昆虫に提供しない花であっても、他に花が少ない季節であれば、訪花昆虫を獲得できる可能性が高くなります。
また、冬はヤツデ以外に開花している植物が少ないため、あるヤツデに訪れた昆虫は、移動した先でも再び他個体のヤツデの花に訪花する可能性が高いと考えられます。そのため、昆虫の体に付着した花粉が無駄になることなく同種の別株の花に運ばれる可能性も高くなると考えられます。
真冬であっても、日が射す暖かい日には比較的活発に活動する昆虫もおり、ヤツデに訪花した昆虫は、スズメバチ、ハナアブ、ハエの仲間であったという研究報告があります。
11月の暖かい日には、イシガケチョウの訪花が見られました。
スズメバチの仲間の訪花はよく見られます。
暖かい日には、ハナアブやツマグロキンバエなどがたくさん訪れ、花の周りをブンブン飛び回っています。
ヤツデは、雄しべを落とした後に、柱頭を伸ばします。そうすることによって、自花の花粉が柱頭に付着するのを防ぎ自家受粉のリスクを低減しているものと考えられるます。
黒紫色の果実が、4~5月実ります。鳥が食べにやってきます。