気づかないうちに食べている虫の話

2020年1月31日 ALL生物
コチニールカイガラムシ Photo by Frank Vincentz from Wikipedia(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cochenille_z02.jpg)

近年の人口の爆発的増加による食糧不足に対処する方法として昆虫食が着目されていますが、日本での広がりは限定的です。ですが、すでに昆虫が作った成分は、私達の食べ物に使われています。昆虫食に抵抗が大きい人は多いかもしれませんが、普段から食べているのですから、ちょっとレパートリーを増やすぐらい、どうってことないです。

カイガラムシから取れる色素

コチニール色素は、メキシコに生息するコチニールカイガラムシ、南ヨーロッパに生息するケルメスカイガラムシ、アジアに生息するラックカイガラムシといったカメムシ目カイガラムシ上科の生物が作り出す色素です。乾燥させたメスのカイガラムシを水、またはエタノールで抽出します。コチニールカイガラムシの色素は、食品の着色によく使用され、いちごのヨーグルトやピンク色のかまぼこ、かき氷用のシロップに使われています。

Cochenille

コチニールカイガラムシ Photo by Zyance from Wikipedia

コチニールは、2005年の段階で、ペルーで200トン、カナリア諸島で20トン生産されており、フランスが最も多く輸入し、日本にも多く輸入されています。1キログラムあたり50ドル〜80ドルで取引されています。1キロのコチニール色素を得るのに、80,000~100,000匹のカイガラムシが必要です。

ラックカイガラムシの色素は、中国やインドで昔から染料として用いられてきました。塗料のラッカーという言葉は、ラックカイガラムシに由来します。ケルメスカイガラムシ Kermes ilicis は、地中海沿岸やヨーロッパでカーミンと呼ばれて利用され、物質名カルミン酸の由来となりました。

コチニールカイガラムシとは?

中南米原産のコチニールカイガラムシ Dactylopius coccus は、カメムシ目コチニールカイガラムシ科に属する大きさ約3mm(メス)、約1.5mm(オス)ほどの非常に小さな昆虫です。現在色素を利用するカイガラムシとしては、最もよく利用され、メキシコ、ペルー、南スペインなどで養殖されています。1400年~1500年ごろに繁栄したアステカ帝国やインカ帝国で養殖され、染色用に用いられていました。

コチニールカイガラムシ

コチニールカイガラムシFrank Vincentz [CC BY-SA]


コチニールカイガラムシは、ウチワサボテン属のサボテンに取り付き、口吻を師管に差し込んで吸汁します。

カイガラムシの仲間は一度植物に取り付くと、ほとんど動かず同じ場所で吸汁し続けるものが多く、幼虫、成虫ともに移動能力が著しく低いものが多いです。植物に非常に強固に付着し、無理やり剥がすと口吻だけ植物に残ってしまう種もあります。多くの種では、成虫になるとオスだけ羽が生えて飛ぶことができるようになります。

色素以外にも有用なカイガラムシ

ラックカイガラムシ Photo by Jeffrey W. Lotz from forestry images

カイガラムシは、師管に口吻を差し込んで汁を吸いますが、吸い取った栄養のほとんどが糖であるため、炭素の摂取量が過剰になります。一部は糖の形で甘露として排出しますが、それに加えて、ワックスエステルや樹脂酸類を蝋質の分泌物として体表から分泌します。カイガラムシは、この分泌液で体が覆われており、この蝋質の分泌液を虫体被覆物といいます。種によっては、排泄物をまぜこんでいるものもあるようです。ラックカイガラムシの虫体被覆物を、抽出精製した物質はシェラックと呼ばれます。シェラックは熱硬化性を示し、様々な成型品に使われます。また、化粧品の原料や錠剤、チョコレートのコーティングにも使われます。