ツツジがきれいに咲く季節になりました。モチツツジは、名前に「モチ」と付くだけあって粘着性のある液体を萼や葉などに分泌します。今回は、このネバネバにどのような昆虫がくっついているのか観察してみました。
モチツツジとは?
ツツジ科ツツジ属の植物です。本州の山梨県から岡山県までと四国に分布し、低山地の明るい二次林でよく見られます。4〜6月に花を付けます。また、萼や葉、若枝などに粘着性の物質を分泌します。
どうしてモチツツジはネバネバしているの?
モチツツジの粘着物質は、花や葉を食べるためにやってきた生物を植物体上で身動きできなくなるようにするために分泌していると考えられています。
ネバネバの成分については、花蜜の糖とは全く別のものであり、複数種のアルコール類と酸が混ざったものであることがわかっています。
どんな昆虫がモチツツジにくっついているのか。
どのような昆虫が粘着物質に捕らえられているのか観察してみました。
30分ほど、目につくものを写真に撮っただけで、これだけの種類の昆虫がモチツツジのネバネバにトラップされているのが観察できました。
今回モチツツジにくっついていることが観察された昆虫の中で、キリギリス、チャタテムシ、アブラムシ、ハネカクシの仲間は、モチツツジを食べる可能性があります。一方、その他の昆虫は、モチツツジを食べないにもかかわらずたまたまモチツツジにとまってしまったために、くっついてしまったと考えられます。それらの昆虫にしてみれば、モチツツジはなかなか迷惑な植物といえます。
今回の観察では、ツツジ類の花粉の送粉者となりうる大型のハチ(マルハナバチやミツバチなど)やチョウはトラップされていませんでした。ですが、マルハナバチがトラップされることもあり(kimo-ota pers. obs.)、モチツツジに有益な送粉者であっても全くくっつくことが無いわけではありません。モチツツジにとっても、ネバネバの腺毛をつけることは、送粉者を減らしてしまうかもしれないというリスクを負っています。今回の観察でトラップされていた昆虫の中で最大のものは、1cmくらいの大きさのケバエで、腺毛にくっついて身動きが取れなくなり何匹も死んでいました。
モチツツジのネバネバに捕らえられ、身動きできなくなっているケバエ
モチツツジのネバネバに捕まった昆虫を食べる虫
植物の表面をネバネバさせることによって虫を捕らえる植物には、食虫植物が知られています。食虫植物は、植物表面から自ら消化液を出して栄養を吸収したり、共生している昆虫に消化してもらったものを吸収するなどして栄養を摂取します。モチツツジも同様に、表面についた昆虫から栄養を得ているのではないかと考えた研究者が、研究を行いました。しかし、モチツツジは、表面についた昆虫からは、栄養を得ていないことが明らかになっています。では、モチツツジにくっついた昆虫は完全に無駄死にしているのでしょうか。
実はそうではないようなのです。なんと、モチツツジにくっついて死んでしまった昆虫を専門に食べるカメムシがいることが知られています。次回は、そんなニッチな生態を獲得したモチツツジカスミカメというカメムシについてのお話をしたいと思います。
【参考文献】
中村ほか(1965) モチツツジの粘液に含まれる新トリテルペノイドアルコールの単離 日本化學雜誌 86, 1308-1310.
Anderson,B., et al. (2012) Sticky plant captures prey for symbiotic bug: is this digestive mutualism? Plant Biology, 14, 888-893