ツチハンミョウが作る毒とそれを利用する生き物たち

2020年12月5日 ALL生物
ツチハンミョウ sp.

前回、ツチハンミョウについて、その独特な生活史を中心にお話しました。ツチハンミョウには、猛毒を作るという特徴もあります。今回は、ツチハンミョウが作る毒についてのお話です。

猛毒カンタリジンを出すツチハンミョウ

ヒラズゲンセイ

ヒラズゲンセイ(Photo by ミチさん):最近分布が拡大していると言われているヒラズゲンセイもツチハンミョウ科に属します。

ツチハンミョウの仲間には、カンタリジンという猛毒を関節から出すものがいます。カンタリジンを生産する生物は、ツチハンミョウ科の昆虫とカミキリモドキ科の昆虫のみと考えられています。

モモブトカミキリモドキ

モモブトカミキリモドキ(Photo by Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

ヒトがこの毒に触れると、火傷をしたときのような水疱ができます。また、微量の摂取で人体に致死的な影響が出るため、中国では毒薬として使われていました。日本でもこの昆虫の毒を毒薬として使おうとしたものの、ツチハンミョウをハンミョウと間違え、ハンミョウを使って毒薬を作ったため、効かなかったという話があるようです。また、極微量のカンタリジンは、漢方薬として利用されます。

みんなが手に入れたい?カンタリジン

アカハネムシ科の一種(Photo by User:Sarefo, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

カンタリジンの匂いで、多数の昆虫が誘引されることが知られています。カンタリジンに誘引された、もしくはカンタリジン生産者との関連が示唆された分類群は4目17科約300種報告されています。ツチハンミョウの死体には、カンタリジンの臭いを目印に、その肉を食べたり寄生することを目的にやってくる昆虫もいますが、このカンタリジンそのものを目当てにやってくる種もいます。摂取したカンタリジンを体に保持することで、他の生き物からの捕食を免れるだけでなく、卵に含有させ、卵の捕食率を下げようとする昆虫がいることも知られています。例えば、アカハネムシ科の一種のオスは交尾の際にメスにカンタリジンを渡し、メスはカンタリジンを含んだ卵を生みます。このような種では、たくさんのカンタリジンをメスにプレゼントできるオスがよくモテます。

鳥類にも利用されるカンタリジン

ノガン

ノガン(Photo by zh:User:Snowyowls, CC BY-SA 1.0, via Wikimedia Commons)

鳥類にもカンタリジンを利用していると考えられる種がいます。鳥類は、カンタリジンの毒に耐性を持った種が多いといわれています。ノガンのメスは、交尾の際にオスの総排泄口をチェックし、腸内の寄生虫が少ないオスをより好むと考えられています。オスは、積極的にツチハンミョウ科の昆虫を摂取するのが知られており、腸内の寄生虫を駆除していると考えられています。

参考文献:橋本晃生, カンタリジンを介して昆虫が紡ぐコミュニケーションネットワーク. 昆蟲 2018;21:230-239.