「咲いた 咲いた チューリップの花が ならんだ ならんだ 赤白黄色」(近藤宮子 「チュリップ」)という歌のように、私達の身の回りで栽培されている植物は、同種でも色とりどりの花を咲かせていることは珍しくありません。しかし、同種でありながら複数の色の花を咲かせる野生の植物は、実は多くはありません。今回は、二色の花を咲かせるニワゼキショウのお話です。
どうして同種の花は同色なのか?
タンポポの花の色は黄色、シロツメクサの花の色は白、オオイヌノフグリの花の色は青色というように、野生で見られる植物の花の多くは同種なら同じ色です。それには、訪花昆虫の習性が大きく関わっています。花に訪れる様々な昆虫について、豊富な蜜や花粉を提供する花を見つけると、その花の色や形、匂いなどの形質を記憶し、同じ種類の花を積極的に訪れる傾向(Flower constancy)があることが分かっています。植物が他家受粉を達成するには、同じ昆虫に最低でも2回、同種の別の花に訪れてもらう必要があります。そのため、植物にとって、昆虫に花の形質を記憶してもらうことは重要であり、同種同士で色を揃えることにより昆虫に花の特徴を覚えてもらい、花粉を運んでもらいやすくしていると考えられます。
どうしてニワゼキショウは2色の花を咲かせるのか?
ニワゼキショウは、アヤメ科ニワゼキショウの一年草です。北アメリカ原産で、日本には明治時代に渡来して帰化しました。日当たりの良い芝生や道ばたなどで見られます。
ニワゼキショウには、紫色の花と白色の花を咲かせるものがあります。これらの花の色は、遺伝子によって決定されており、紫色の花を咲かせる個体は、ホモ接合型(dd)であり、白色の花を咲かせる個体は、ホモ接合型(DD)かヘテロ接合型(Dd)です(D: 顕性遺伝子、d: 潜性遺伝子)。Takahashi et al. (2015) の研究により、ヘテロ接合型(Dd)の白色の花は、自家受粉においても他家受粉においても、他の遺伝子型のものよりも多くの種子を残せることが明らかになりました。つまりDとdのどちらの遺伝子をも持ったものが最も適応度が高いため、dDの遺伝子型を持った親(白色)から生まれたddの遺伝子型の子(紫色)も残り続けるのです。同種内に二色の花が存在し続けるのは、昆虫を呼ぶことを考えるとデメリットですが、種子の生産性の点でそれ以上にメリットがあるため、ニワゼキショウは同種内に二色の花を維持し続けていると考えられます。
[参考文献]
Takahashi Y, Takakura K ichi, Kawata M. Flower color polymorphism maintained by overdominant selection in Sisyrinchium sp. J Plant Res. 2015;128:933-939