サクラを食べるクビアカツヤカミキリ

2022年5月31日 ALL生物
クビアカツヤカミキリ Photo by tecomi

近年、クビアカツヤカミキリというカミキリムシが日本に侵入し、急激に分布を広げています。クビアカツヤカミキリは、サクラやモモなどのバラ科の木を枯らしてしまうこともあります。今回は、特定外来生物に指定されているクビアカツヤカミキリについてのお話です。

クビアカツヤカミキリとは?

クビアカツヤカミキリ

クビアカツヤカミキリ Photo by ドズル総帥

クビアカツヤカミキリ Aromia bungii は、カミキリムシ科ジャコウカミキリ属に分類される昆虫です。体長は25-40 mm、全身が艶のある黒色で、前胸部のみ真っ赤の、なかなかインパクトのある外見をしています。中国、モンゴル、ロシア、ベトナムなどに分布します。日本には、2012年に愛知県で侵入が初めて確認され、2018年に特定外来生物に指定されました。特定外来生物ですので、日本国内で飼育したり、生きたまま移動させることは法律で禁じられています。

クビアカツヤカミキリが入ったサインは?

クビアカツヤカミキリのフラス

クビアカツヤカミキリのフラス Photo by リモネン

フラスと呼ばれる糞と木くずの混合物が寄生木から大量に排出されます。排出場所は、根本だけでなく、地面から1.5〜2mくらいの高さにある場合もあります。フラスを排出する昆虫は他にもいますが、クビアカツヤカミキリのフラスは、色が明るめで細長く連なって排出され、かりんとうのような特徴的な形状をしています。コスカシバ Synanthedon hector というガの幼虫も、暗褐色の似た形状のフラスを出すことがあるため、よく観察する必要がありますが、クビアカツヤカミキリほど大量にフラスを出すことはないようです。そのため、フラスからクビアカツヤカミキリが寄生しているか否かを判断することができます。

幹の中に入って樹木を枯らすクビアカツヤカミキリ

カミキリムシの仲間の産卵数は平均200個ほど、最大産卵数が400個ほどであると言われているのに対し、クビアカツヤカミキリは、平均約300個、1000個以上の卵を産むこともあると言われています。

多くの個体は2年近く、栄養状態によってはそれ以上樹冠内で過ごし、6月から7月頃成虫になって外に出てきます。5月から10月ぐらいまでフラスが排出されることから、少なくともその期間は材を食べ続けていると考えられます。クビアカツヤカミキリは、カミキリムシの中では比較的大型の種で、幼虫は成虫になるまで大量の材を食べて成長します。また、モモでは、一本の木に280匹の幼虫が寄生していたことが報告されています。個々の幼虫の採食量が多いのに加えて、高密度に幼虫が寄生することがあるため、侵入された樹木は非常に大きなダメージを受けるものと考えられます。

切り株

クビアカツヤカミキリに穿孔された樹木の内部の模式図 樹木の幹の内部や樹皮直下に複数の穴が空く。

よく被害が取り沙汰されるサクラの場合、20cmくらいの樹木個体だと加害を受けてから2年ほどで枯死することがあります。サクラ以外にも、モモ、ウメ、アンズ、スモモ、ハナモモでも被害が報告されています。

モモの場合、樹齢8〜10年以上の木に好んで寄生することが明らかになっており、寄生されたモモは2〜3年で枯死することもあります。モモは樹齢7〜8年頃に収量が高くなり、その後15年〜20年くらいまで収穫が続きます。ちょうど実が多くなりだした頃にクビアカツヤカミキリに入られ、枯らされてしまうことになり、農家にとって非常に深刻な問題です。日本では、サクラが多く植栽されているため、その被害がよく報告されますが、サクラよりもモモに好んで入ると言われており、日本でクビアカツヤカミキリの分布が拡大するとモモへの被害が深刻化する可能性が高いと考えらています。

[参考文献]
森林科学 [特集] バラ科樹木の脅威 クビアカツヤカミキリ. 2020. 森林科学 89.