こだわりを捨てて分布拡大、ハクセキレイ

2023年1月26日 ALL生物

公園や川の周辺でチョロチョロと歩き、止まっては長い尾っぽを振る、白と黒の鳥を見かけたことはないでしょうか。実は二種類いるのですが、ちゃんと見分けられたらちょっと楽しいかも。また、この二種、生息環境について一方はこだわるタイプ、一方はこだわらないタイプです。どちらがうまくいっているのでしょうか。

セキレイの仲間の見分け方

キセキレイ

キセキレイ

セキレイ Motacilla は、地面を歩き回りしっぽを振るという特徴的な行動をするため、セキレイかどうかを判断するのは比較的簡単です。日本にセキレイの仲間は、三種しかおらず、そのうち一種は腹が黄色いキセキレイ Motacilla cinerea で、簡単にみわけることができます。残りの二種は、どちらも白と黒のツートンカラーですが、見分けるポイントを知っていれば区別するのはそれほど難しくありません。

見分けるポイントは、顔です。真横から見た時に顔が白く、目尻から後ろ側に黒い線が伸びるのがハクセキレイ Motacilla alba、目より下が全部黒いのがセグロセキレイ Motacilla grandis です。ただ、いずれの種も喉は白いので、こちらを向くと目の下が白く見えるときがあるので要注意です。

ハクセキレイ

ハクセキレイ

セグロセキレイ

セグロセキレイ

また、見た目だけでなく、生息環境にも差があります。

近年広がったハクセキレイ

ハクセキレイ

ハクセキレイは、1930年代には北海道全域の沿岸部でのみ繁殖していました。それ以前には、北海道でもほとんど繁殖個体が見られないという記録が残っており、明治の開拓期以降に北海道で分布を広げたと考えられています。その後、1955年頃には、北海道全域と東北地方の海岸沿いで繁殖するようになり、1980年代には、近畿地方や、愛媛や福岡の海岸沿いでも繁殖が報告されるようになりました。また、それと同時に、北海道を除き全国的に海岸沿いのみであった繁殖地が河川沿いに内陸に広がり、2000年頃には内陸部の大部分、つまり河川から離れた場所でも繁殖が観察されるようになりました。内陸に侵入したハクセキレイの繁殖環境は主に住宅地や建物の密集地などであり、人工物に営巣しているようです。

こだわらないハクセキレイ

北海道から九州までセグロセキレイがすでに分布していたにもかかわらず、同属のハクセキレイは日本中で分布を広げました。セグロセキレイとハクセキレイは、縄張り争いをするとセグロセキレイの方が強く、単純にセグロセキレイがハクセキレイによって直接生息地を追い出されるということは起こらないようです。ハクセキレイが、今までセグロセキレイが利用してこなかった人工物を営巣場所として利用することにより、セグロセキレイの生息環境を含めて生息地を拡大できたのだと考えられています。

こだわるセグロセキレイ

一方セグロセキレイは、河川や水田周辺での生活にこだわり続けました。水辺の環境が人間活動によって変化したために、分布が縮小した可能性が指摘されています。ただし、セグロセキレイの生息地縮小が、単純な生息環境の変化によるものなのか、ハクセキレイとの競合による結果なのかについて明確な答えを出すのは難しいと考えられます。というのは、両種は同じ場所を採食の場として利用しうるため、縄張り争いで優位なセグロセキレイにとっても、ハクセキレイを追い払うためのコストがかかると考えられるからです。

セグロセキレイ

セグロセキレイ

人為的な撹乱により生息環境の変化が激しい現代は、同じ環境に固執するセグロセキレイよりも、柔軟に生活を変化させることができるハクセキレイの方が適応的なのかもしれません。

[参考文献]

中村一恵 (2013) 日本列島におけるセキレイ属近縁 2 種の分布変遷と種分化. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum, Natural Science, 2013(42): 71–90.