バブリー昆虫、アワフキムシ
植物にシャボンの泡のようなものが付着しているのを見たことないでしょうか。この泡の中には、ちゃんと住人がいます。今回は、泡を住処とするアワフキムシのお話です。
アワフキムシとは?
アワフキムシとは、カメムシ目アワフキムシ上科 Cercopoidea に属する昆虫を指します。アワフキムシ上科には、アワフキムシ科、コガシラアワフキ科など5科が含まれます。5ミリから15ミリほどの小さな昆虫です。成虫は翅もあり、ジャンブも得意で移動能力が高いですが、幼虫は一つの場所にとどまってほとんど移動しません。
大量の水分を摂取するアワフキムシ
アワフキムシは、成虫、幼虫ともに植物の道管に口吻を差し込んで水分と養分を吸い取ります。アブラムシやカイガラムシが師管液(光合成産物である有機物を多く含んだ液)を吸うのに対し、アワフキムシは道管液(主に根が地面から吸った水分)を吸うため、大量の水分を得る割には栄養分をあまり得ることができません。そのため、アブラムシのようにベタベタするほど大量の糖分を含んだ排泄物を出すことはありません。
水分ばかりで栄養の少ない道管液を大量に吸い続けるのは、効率が悪いように思えますが、アワフキムシにはこの大量の水を有効活用しています。幼虫は、その水を使って自らの住処を作るのです。
アワフキムシが泡の家を作る理由
アワフキムシが泡を作るのは、移動性の低い幼虫の時期(4月〜5月頃)です。幼虫は、大量の水分にアンモニアなどの有機物を混ぜて泡立ちを良くし、さらにタンパク質を加えることで泡持ちも良くして、そこに空気を送り込んで泡を作ります。アンモニアを含んだ水溶液は、界面活性剤、つまりアンモニア石鹸と同じ機能を果たします。昆虫の体は普通油で覆われており、水が表面についても弾くようにできています。また、昆虫は体の外側に空いた小さな穴(気門)から入ってくる空気で呼吸をしています。しかし、界面活性剤によって油のコーティング効果が失われると体の表面に水滴がつきやすくなり、気門が水で塞がり窒息してしまいます。そのため、物理的には柔らかい泡でも、捕食者となる昆虫がアワフキムシの泡の中に入ることはできません。アワフキムシの幼虫は、バリアの中にいるような状態といえます。幼虫自身は、お尻の先にある管を泡の外にのばし呼吸をするため、泡の中にいても窒息することはありません。
糖度の高い甘露を出してアリと仲良くし、天敵から守ってもらうアブラムシ、硬い殻にこもって身を守るカイガラムシ、泡バリアで身を守るアワフキムシ、同じように植物の汁を吸う小さなカメムシ目の昆虫たちですが、身を守る術は三者三様のようです。