よく考えてみたら、鱗粉って何のためにあるんだろう?
チョウの翅を持った際に鱗粉が剥がれてしまって、ちょっと申し訳ない気分になった経験がある人はいるかもしれません。この鱗粉にはどのような役割があるのでしょうか。
鱗粉とは?
鱗粉は、魚の鱗のように鱗翅目の翅の表面を覆っているクチクラでできた構造物です。一枚の鱗粉が、一個の死んだ細胞でできています。簡単に抜け落ちる構造になっていますが、一度脱落すると新しく生産されることはありません。しかし、鱗粉は動物の毛のようにあくまでも翅の表面を覆っているだけであるため、鱗粉が脱落しても翅に穴があくことはありません。
どうしてチョウの仲間(鱗翅目)は鱗粉を持つようになったのか。
鱗翅目の中には、チョウとガが含まれます。チョウは約17600種であるのに対し、ガは約16万種と、圧倒的にガの種類が多いです。チョウのほとんどが昼行性であるのに対し、ガは夜行性のものが多く、気温が低く、太陽光に当たることができない時間に飛翔しなければなりません。体温が低下しすぎると飛ぶことができなくなるため、体温を比較的高い温度で維持することは夜行性のガにとって重要です。最初に鱗翅目が鱗粉を獲得したのは、保温機能を高めるのが目的であったと考えられています。
鱗翅目は毛翅目(トビケラ目)と共通祖先を持ちます。トビケラは胴体を覆うように翅を閉じます。その共通祖先も同様の形態であれば、翅に毛や鱗粉を有することは胴体の保温に寄与するものと推察されます。
鱗粉の役割
鱗粉はもともと体の保温のために持つようになったのではないかという仮説について述べましたが、熱帯のような暖かい地域に生息し、かつ昼行性であるチョウであっても、ほとんどの種が鱗粉をもっています。そのことから、現在の鱗翅目がもっている鱗粉には保温以外に様々な役割があるのではないかと考えられています。
様々な模様を作る
鱗翅目の翅の美しい模様は、鱗粉によって作られています。翅に鱗粉を持たないトンボやハチ、ハエの翅の柄にはチョウほども模様のバリエーションがないことからも、鱗粉のおかげでいかに多様な柄を作ることができるのかがわかります。
チョウの翅の柄は、天敵を驚かせたり、天敵に毒があることをアピールしたり、毒のあるチョウに擬態したり(ベイツ型擬態)、毒のあるチョウ同士が似た模様をもち天敵に毒があることを知らせたり(ミューラー型擬態)、周囲の環境に擬態したり(隠蔽)、雌雄の目印に使ったり、といろいろな役割があります。
クモの巣や鳥から逃げる
鱗翅目の鱗粉が脱落しやすいことには意味があり、クモの巣に引っかかったときに鱗粉が糸にくっつくことにより、体は抜け出せる可能性が高くなることが報告されています。また、鳥にくわえられそうになった際にも、鱗粉が抜け落ちることにより捕まりにくくなる可能性が指摘されています。
その他にも、水や汚れを弾きやすくする、飛翔時の空気抵抗を少なくするなどの効果があると考えられています。