幼虫が食べられることで有名なモンクロシャチホコ、成虫の姿は?

2023年8月5日 生物

サクラの木にしばしば幼虫が大量発生するモンクロシャチホコ、食べることができるため、成虫よりもむしろこの幼虫の方がよく知られています。では、成虫はどんな姿なのでしょう。

モンクロシャチホコとは?

モンクロシャチホコ

モンクロシャチホコの成虫

モンクロシャチホコ Phalera flavescensは、チョウ目シャチホコガ科の昆虫で、北海道から九州に分布します。成虫の体長は4.5cmから6.0cmほどです。幼虫は8月から9月頃に発生し、サクラの仲間、スモモ、ビワ、ナシ、クヌギ、ニレ、カエデなどの植物の葉を食べます。

モンクロシャチホコ

モンクロシャチホコの幼虫

幼虫は高密度に発生し、木一本が真夏にほとんど丸裸になるほど食害を受けることがあります。

モンクロシャチホコ

モンクロシャチホコに葉を食べ尽くされたスモモの枝

若齢幼虫は体色が赤く、老齢幼虫では真っ黒になります。幼虫には長い毛が生えていますが毒はなく、人には無害です。葉がなくなった枝の先に密集してじっとしている幼虫に息を吹きかけると、ピクピクと独特な動きをします。

モンクロシャチホコは年一化で、幼虫は9月〜10月頃土に潜り、蛹で越冬、翌年の7月〜8月ごろに成虫になります。このように、1年の大半を蛹で過ごします。

大人になってから鳥の糞に擬態するモンクロシャチホコ

チョウ目には、動きが遅い幼虫のときに鳥の糞に擬態したり、エサ(葉)の色と同じ体色を有することで捕食者に見つかりにくくする種が多くいます。一方、成虫になると、飛翔して逃げることができることもあって、派手な見た目を有する種も少なくありません。

アゲハの仲間の幼虫

アゲハの仲間の若齢幼虫:糞に擬態していると考えられる。

しかし、モンクロシャチホコの幼虫は、特に若齢では体色が赤いため緑の葉っぱの上では目立つ色をしています。おそらく毒も持たないため、警告色というわけでもなさそうです。むしろ、人の味覚からすると美味しいとも言われます。ところが、見たところそれほど鳥に食べられている様子はありません。

イソヒヨドリ

モンクロシャチホコの幼虫を食べるイソヒヨドリ

モンクロシャチホコは、成虫になってから鳥の糞に擬態するようです。私が見つけたモンクロシャチホコの成虫は、鳥の糞がついていてもおかしくないような葉の上面に乗ってじっとしていました。接近して写真を撮っても微動だにしませんでした。頭を腹側に引っ込め、足も触覚もできるだけ体の下にしまい込むような姿勢でとまることにより、より鳥の糞にみえるようにしていると考えられます。

モンクロシャチホコ

モンクロシャチホコの成虫:実際に野外で見ると、かなり鳥の糞に似た見た目をしている。

興味深いのは幼虫が大量発生する割には、成虫を付近でそれほど多くは見かけないことです。長い蛹の段階での死亡率が高い可能性や、成虫は羽化後速やかに拡散する可能性などが理由として考えられます。