葉を綴る虫、トサカフトメイガ
8月の上旬、スモークツリー Cotinus coggygria の枝先の葉が、何者かにほとんど食べられました。よく見ると、葉脈だけが残された葉が枝ごと糸で綴られた状態になっています。
犯人は、どんな生き物でしょうか。
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綴られた葉の中にいたのは?
葉を軽く曲げて作られた直径3cmほどのスペースの中に、長さ3cmほどのトサカフトメイガという蛾の幼虫が一匹入っていました。幼虫がいるスペースは荒く糸で覆われていました。幼虫は、盛んに動き回って葉を食べていました。
トサカフトメイガLocastra muscosalisは、チョウ目メイガ科の昆虫で、北海道から南西諸島に分布します。国外では、朝鮮半島、中国、台湾、インド、マレーシアなどで報告されています。
6月〜8月に土中で越冬したものが成虫になります。幼虫は、ヌルデやハゼノキ、スモークツリーなどのウルシ科、オニグルミなどのクルミ科の植物の葉を食べます。終齢幼虫は、3.6cmほどになります。9月頃に終齢になると地表から1cm程度の土中に潜って繭を作り、越冬します。
スモークツリーの上部ほどよく食べられていることから、比較的若い葉の多い上部から葉脈を残して葉を食べ尽くし、大きくなるにつれて下部に移動する思われます。また、若齢だと集団で同じ空間にいることが観察されますが、大きくなると分散し、個々に葉を曲げて空間を作るようになるようです。一本の木に大量に発生しており、おそらく200個体ほどが高さ4mほどのスモークツリーに巣を作っていました。
自ら作り出した安全地帯
幼虫が出した糸は、少し硬めのクモの巣と似たような感触です。また、蜘蛛の糸と同様に粘着性があり、触れると手に絡みつきます。鳥が幼虫を見つけても、この糸に手こずっている間に逃げることができると考えられます。また、そもそも巻いた葉の中にいるため、外から見つけにくいと考えられます。加えて、粘着性の糸に囲まれることにより、捕食性の昆虫や寄生性の昆虫から狙われることも少ないと考えられます。チョウやガの仲間の中には、糸を蛹期間を過ごす繭の材料に使ったり、幼虫の時期に上から吊り下がるために命綱として使うものもありますが、トサカフトメイガは、幼虫期の安全地帯を作るために用います。