餅つき虫ではありません、米つき虫です。
ノミやバッタ、ハエトリグモなどジャンプする虫は珍しくありませんが、甲虫の中にもジャンプするものがいます。今回は、米をつくようにジャンプすることが和名の由来となったコメツキムシのお話です。ちなみに、米搗き(こめつき)とは、玄米から糠や胚芽を取り除く精米作業です。餅つきではありません。
コメツキムシとは?
コメツキムシはコウチュウ目コメツキムシ科 Elateridae の昆虫を指します。コメツキムシ科の昆虫(以下、コメツキムシ)は世界で約10000種、日本でも約700種が知られており、多くの種は飛び跳ねることができます。本科には、体長約1mmの極めて小さいものから、8cmほどの大型の種まで、様々な体サイズのものが含まれます。
どうやって飛び跳ねるの?
コメツキムシは、前胸部にある突起が中胸部にある突起に引っかかるようになっています。その引っかかりが解けた瞬間に胸部が勢いよく曲がり、その力を使って飛び上がります。この現象は、飛び移り座屈という物理現象によって説明できます。飛び移り座屈とは聞き慣れない現象ですが、実は身近でもよく起こる現象です。下敷きの長編の両端を手のひら支え、その力加減を調整するとポコンと音を立てながら凹凸がひっくり返る現象(子供の遊び)もその一つです。
なんのために飛び跳ねるの?
飛び跳ねる理由の一つは、裏向きになった時にもとに戻るためだと考えられます。コメツキムシは、天敵に襲われると、脚を引っ込めて擬死します。しばしば裏返った状態で擬死します。甲虫は、一度裏返ってしまうと起き上がるのは簡単ではないようで、脚をバタバタさせて引っかかるところを探して元に戻ろうとします。周りに何もない場所では起き上がるのに苦労します。扁平な形をしたコメツキムシは、特に苦労するように見受けられます。
比較的大型のコメツキムシである、オオフタモンウバタマゾウムシ Cryptalaus larvatus を観察してみました。手で捕まえてしばらくすると、死んだふりを始めました。一度擬死に入ると、つついても微動だにしません。そのままひっくり返して置いても、人の気配がなくなってからも2分ほど擬死を続けました。その後、脚をバタつかせはじめ、数秒後にパチンと跳ねて元の姿勢にもどりました。
天敵をやり過ごすべく死んだふりをしても、元の姿勢に戻るために、脚を長時間バタつかせているとまた天敵に見つかるかもしれません。擬死から戻れば、一刻も早くその場から立ち去ることが望ましいと思われます。そのため、パチンと跳ねて速やかに元の体勢に戻る能力は、かなり重要と考えられます。
飛び跳ねる意義の2つ目は、天敵に対する脅しが挙げられます。コメツキムシは、手でつかもうとしたときにも飛び跳ねる動作をします。力強い動きと音によって一瞬天敵がひるむ、もしくは一度捕まえたとしても落としてしまう場合もあると考えられます。コメツキムシの体はツルっとしていていて、人であっても、捕まえたコメツキムシが跳ねた瞬間にしばしば落としてしまいます。しかし、一度跳ねて天敵から逃れられたとしても、その後の動きが鈍いため、おそらく鳥などにはまたすぐに簡単に捕まってしまうと考えられます。跳ねて敵から逃れ、擬死状態で全く動かなくなるという組み合わせによって、敵に見失ってもらう効果が期待されます。オオフタモンウバタマゾウムシは、2、3度パチンパチンとやった後はすぐに死んだふりを始めました。特に体の大きなコメツキムシには、パチンパチンはそう何度も繰り出せる技ではなく、ここぞというタイミングを見計らっているのかもしれません。
[参考文献]
Young, Chris. 2021. Scientists Study Incredible Energy of Click Beetles’ Jump Motion. Available at: https://interestingengineering.com/science/scientists-study-incredible-energy-of-click-beetles-jump-motion