魚らしからぬ魚

2023年9月23日 生物
Photo by Nhobgood Nick Hobgood from Wikimedia commons

タツノオトシゴは一見したところ魚とは思えない奇妙な見た目をしています。そのため、かつては海に棲む昆虫とも考えられていましたが、れっきとした魚です。この奇妙な形態は、特殊な生活をするために進化したと考えられます。

タツノオトシゴとは?

Hippocampus_coronatus_1

タツノオトシゴ Hippocampus coronatus Photo byLeo D’lion, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

タツノオトシゴは、トゲウオ目ヨウジウオ科タツノオトシゴ属 Hippocampus に属する魚を指しますが、日本近海に住む Hippocampus coronatus という種の標準和名にもなっており、この種のみを指す場合もあります。(以下では、タツノオトシゴ属の魚を「タツノオトシゴ」とします。)タツノオトシゴの寿命は種によって1年以下から10年以上と大きな幅がありますが、多くの種は3から4年ほどです。

タツノオトシゴの特殊な形態

腹びれ、尾びれの退化

タツノオトシゴには胸びれ、背びれ、尻びれはありますが、腹びれ、尾びれはありません。タツノオトシゴのヒレの説明一般的な魚が推進力を得るのに最もよく使うひれは尾びれですが、タツノオトシゴの最も目立つひれは背びれです。この形態は、長距離を早く移動するのには適しませんが、タツノオトシゴが生活する藻や海草が入り組んだ環境で小回りが効き、派手に動く大きなヒレがないことで獲物や天敵にも見つかりにくいという利点があります。

物をつかめる尾部

尾びれはありませんが、尾部はくるくると折り曲げることができ、物を掴むことができます。このことにより、海流に流されることなく同じ場所にとどまることができます。

曲がった首

タツノオトシゴの首は約90度に曲がっています。そのため直立した状態であっても、顔は進行方向正面を向きます。

おちょぼ口

Hippocampus hystrix (Spiny seahorse)

Hippocampus hystrix Photo by vNhobgood Nick Hobgood, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

おちょぼ口もタツノオトシゴの特徴です。口を大きく開くことはできませんが、このおちょぼ口によりエサを約1000分の6秒の速さで吸い込むことができます。

別々に動かせる目

左右の目は別々に動かすことができます。このことにより、効率よくエサを探したり、天敵を見つけたりすることができるものと考えられます。

変わる体色

Hippocampus_bargibanti,_Tulamben

ピグミーシーホース Hippocampus bargibanti Photo byIan V. Shaw / Reef Life Survey, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

タツノオトシゴは、擬態の名人です。周囲の色に合わせて、赤、橙、黃、茶、白、黒と体色を変えることができ、その変化は数時間から数日でおこります。種によっては体の表面の凸凹も擬態に一役買います。その上、藻類、ヒドラなどを体にくっつけることにより、より巧みに擬態する種もいます。ピグミーシーホースと呼ばれる Hippocampus bargibanti は、小さい上に非常に擬態が巧妙であるため、野外での発見はかなり難しいです。本種の新種として記載された個体は、サンゴを採取した際に偶然くっついてきたものです。

何を食べるの?

タツノオトシゴは、カニの幼生やアミ類、カイアシ類など小型の甲殻類を食べます。また小さな魚やその卵なども口に入る大きさであれば食べます。水中を漂うプランクトンを食べる種と、ベントスと呼ばれる海底で生活するものや海草上で暮らしているものを食べる種がいます。プランクトンを食べる場合は、海草に掴まって眼の前に流れてくるのを待ちますが、ベントスを食べる場合は積極的に探し回って食べます。どちらにしても、左右別々に動く目で獲物を見つけ、すぼまった口で吸い込みます。消化能力は低く、大量のエサを必要とします。

【参考文献】
Lourie, S.A. 曽我部, 篤 訳. 2018. タツノオトシゴ図鑑. 丸善出版, 東京.