日本一大きなミノムシ、オオミノガが激減。その原因は?

2023年10月16日 ALL

秋になり木の葉が落ち始めると、目立つようになるのがミノムシです。しかし近年、ミノムシの一種であるオオミノガの個体数が激減しています。原因は、オオミノガヤドリバエによる寄生です。

ミノムシとは?

オオミノガ

ミノムシとは、チョウ目ミノガ科 Psychidae の幼虫や蛹が蓑に入ったものを指します。ミノガ科の昆虫は世界で1350種、日本では20種ほどが生息しています。

オオミノガ

オオミノガ

オオミノガ

オオミノガの若齢幼虫

オオミノガ Eumeta variegataは、日本に生息するミノガ科の中で最大の種で、蓑の大きさは、4-5cmほどになります。

オオミノガを激減させたオオミノガヤドリバエとは?

オオミノガヤドリバエ

オオミノガにとまっていたオオミノガヤドリバエと思われるハエ

オオミノガヤドリバエ Nealsomyia rufellaは、ハエ目ヤドリバエ科の体長5mmほどのハエです。インド、マレー半島、ベトナム、中国などに分布します。日本では1995年に福岡で初めて記録されました。中国から移入したと考えられています。近年では、西日本を中心に関東地方まで分布しています。

オオミノガに寄生するオオミノガヤドリバエ

オオミノガ

オオミノガ

オオミノガヤドリバエは、オオミノガの食草に小さな卵を大量に産み付けます。オオミノガの幼虫は食草を採餌する際、その卵に気づかずに体内に取り込みます。寄生されたオオミノガの幼虫は終齢まで成長し越冬しますが、蛹化直前の5月から6月頃にオオミノガヤドリバエの幼虫が体から出てきます。そのため、寄生されたオオミノガは成虫になることはできませんありません。一匹のオオミノガの幼虫の中で、70匹ほとのオオミノガヤドリバエの幼虫が育つこともあります。これまで市街地にも多く生息していたオオミノガが、1990年代から急激に減少したことが複数の地域で報告されています。それに関連して、オオミノガが8県でレッドリストに登録されています。

他のミノムシに対するオオミノガヤドリバエの影響

ミノムシ

オオミノガに甚大な影響を与えるオオミノガヤドリバエですが、オオミノガ以外の昆虫には寄生しません。そのため、直接オオミノガ以外のミノガ科の昆虫がオオミノガヤドリバエに影響を受けることはありません。しかし、オオミノガが減少した地域で、オオミノガの競合種であると考えられるチャミノガ Eumeta minuscula が増加したという報告があります。

オオミノガヤドリバエに寄生する蜂がオオミノガを救う?

オオミノガヤドリバエ

高知県でオオミノガに対するオオミノガヤドリバエの寄生率を調査したところ、1999年(1999年の冬から2000年の夏。以下も同様。)には29.5%であった寄生率は2000年には90.3%に急激に上昇しました。ところが、2008年の調査では68.3%まで寄生率が低下しました。

この寄生率の低下の要因として、オオミノガヤドリバエに寄生する寄生蜂の影響が考えられています。オオミノガヤドリバエに寄生する寄生蜂は、高知県では8種確認されています。オオミノガヤドリバエの侵入した地域で、オオミノガが駆逐されてしまうかどうかは、それらの地域にオオミノガヤドリバエに寄生したり、捕食したりする生き物の種構成や生息密度に大きく影響を受けるものと考えられます。

[参考文献]
荒川良. 2011. 科学研究費補助金研究成果報告書 オオミノガヤドリバエの寄主利用戦略 -なぜ高知でオオミノガが絶滅しないのか-. available at: https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20580055/
澤田定広, and 荒川良. 2002. オオミノガに対するオオミノガヤドリバエの高知県における寄生状況. 昆蟲.ニューシリーズ 5(4): 111–119. doi:10.20848/kontyu.5.4_111.