お腹が空いたら日光浴:光合成ができるウミウシ

2023年11月30日 生物
チドリミドリガイ Photo by Chaloklum Diving via Wikimedia Commons

食べ物が手に入れられるかどうか、動物にとって生きるか死ぬかの重大事項です。地球上の多くの動物が、食べるために非常に多くの労力を費やしながら生きています。しかし、食べ物がないなら太陽を浴びて光合成しとけば良いか、なんてことを言える動物が実は存在するのです。

光合成するウミウシ

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チドリミドリガイ Photo by Chaloklum Diving, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

ウミウシと呼ばれる生き物の中でも、嚢舌目に分類されるウミウシの中に葉緑体による光合成産物を利用できる種がいます。中でもチドリミドリガイ Plakobranchus ocellatusは、10ヶ月もの間、一度取り込んだ葉緑体を利用し続けることができることが知られています。葉緑体を取り込んだウミウシを飢餓状態で暗所と明所で飼育すると、明所で長期生存率が高くなることが報告されいます。つまり、ウミウシは餌資源が枯渇した環境でも、取り込んだ葉緑体の光合成産物のお陰で餓死せずに生き伸びられる可能性があるということです。また、葉緑体を取り込んだウミウシの卵の生産能力(産卵数)も、光合成が行える明所では暗所より高くなることが報告されています。

ウミウシは葉緑体をどうやって自分の体で機能させているのか

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光合成により産卵数が増える Elysia viridis Photo by Galhaut, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ウミウシ自身は葉緑体を作ることができません。ウミウシは餌資源である藻類が持っている葉緑体を消化することなく自分の腸壁細胞に取り込み、うまく機能させることにより光合成産物を得ます。これは盗葉緑体現象と呼ばれています。葉緑体さえ取り込んだら光合成ができるかと言えば、実はそうではありません。葉緑体は単体では機能しません。光合成には葉緑体の外で作られる光合成タンパク質が必要です。藻類は光合成タンパク質を葉緑体に運び、機能させます。ウミウシは、この光合成タンパク質を得た状態の葉緑体を藻類から取り込みますが、光合成タンパク質は分解されやすく数日で壊れてしまうため、葉緑体の機能も数日しかもたないはずです。そのため、数ヶ月以上も自身の体で葉緑体を機能させ続けるウミウシは、どのようにして光合成タンパク質を得ているのかが長年研究者の注目の的になっていました。ウミウシが光合成タンパク質を作るためには、その設計図が書かれた遺伝子が必要であり、これまで、ウミウシが藻類の遺伝子を自分のDNAに取り込んで(遺伝子の水平伝播)自分で光合成タンパク質を作っているという説が有力でした。しかし、最近行われたウミウシのゲノム解析より、ウミウシは藻類のDNAを取り込んでいないことが判明しました。このことから、ウミウシは葉緑体に新しい光合成タンパク質を次々と供給するのではなく、藻類が作った光合成タンパク質が壊れないように長期間維持するなんらかの仕組みをもっているのではないかと推察されています。

 

【参考文献】
Cartaxana P, Rey F, Lekieffre C, Lopes D, Hubas C, Spangenberg JE, Escrig S, Jesus B, Calado G, Domingues R, Kühl M, Calado R, Meibom A & Cruz S (2021) Photosynthesis from stolen chloroplasts can support sea slug reproductive fitness. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 288(1959).

Casalduero FG & Muniain C (2008) The role of kleptoplasts in the survival rates of Elysia timida (Risso, 1818): (Sacoglossa: Opisthobranchia) during periods of food shortage. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 357(2): 181–187.

Hinde R & Smith DC (1975) The role of photosynthesis in the nutrition of the mollusc Elysia viridis. Biological Journal of the Linnean Society, 7(2): 161–171.

基礎生物学研究所. 光合成するウミウシ、チドリミドリガイのゲノム情報を解読 〜光合成能は藻類遺伝子が宿主動物の核へ水平伝搬した結果であるという従来の説を覆す〜. available at: https://www.nibb.ac.jp/press/2021/05/27.html.