抱卵も托卵もしない唯一の鳥、ツカツクリ

2024年1月13日 生物
ヤブツカツクリ Photo by JJ Harrison from Wikimedia Commons

鳥といえば、卵を体であたため雛の世話をするのが普通です。しかし、ツカツクリの仲間は、なんと抱卵も托卵もしません。このような鳥は知られている限り、ツカツクリのみです。今回は、そんな珍しい生態を持つツカツクリについてのお話です。

ツカツクリとは?

オーストラリアツカツクリ

オーストラリアツカツクリ Photo by Toby Hudson, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ツカツクリとは、キジ目ツカツクリ科 Megapodiidaeに含まれる種を指します。ツカツクリ科は7属に分かれ、20種ほどが現生します。西太平洋の島、オーストラリア、ニューギニアなど、オーストラレーシアと呼ばれる地域に主に分布します。人が住むようになったことによってツカツクリの仲間が絶滅してしまった島も多くあると考えられています。森林に生息し、地上を歩き回って昆虫やその他の節足動物、ミミズ、果実、種子などを食べる雑食性の鳥です。

抱卵しないツカツクリ

エボシツカツクリ

エボシツカツクリ Photo by Arjan Haverkamp, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ツカツクリは、卵を抱卵しないかわりに、地中に埋めて温めます。熱源は、主に腐葉土が発酵する際に出る熱と太陽光です。種によっては、地熱を使うものもいます。しかし、抱卵しないからといって決して楽ができるというわけではなさそうです。

例えば、オーストラリアに生息するヤブツカツクリAlectura lathami の場合、オスが5月から6月頃に巣を作り始めます。まず、幅3m深さ1mほどのくぼみを作り、巣の周囲50mから樹皮や小枝、落ち葉などを集めます。その上に断熱用に砂を被せます。砂の層は分厚い場合、1mほどにもなります。

ヤブツカツクリ

ヤブツカツクリの巣 Photo by D. Cowell, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

雨が降ると、土をひっくり返して混ぜることにより、腐葉土の発酵を促します。発酵が順調に進み、適切な地温である33℃から35℃が確保できるようになると、メスは9月から2月(南半球の春から夏)にかけて卵をうみます。卵は腐葉土と砂の層の間のあたりに生みつけられます。メスは15個ほど、多ければ30〜50個の卵を産みます。卵が孵るまでの期間は温度によって異なりますが、50日〜100日ほどかかります。その間、オスはくちばしを土に差し込んで地温を測り、雨を入れたり巣材を増やしたりして地温の調整を行い続けます。そのため、1年のうち9ヶ月もの間、オスは巣の管理に携わっています。オスが巣の管理を主に行うというのはツカツクリの仲間に共通した行動です。

卵の温度と性別

ヤブツカツクリ

ヤブツカツクリ Photo by Jim Bendon from Karratha, Australia, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

ヤブツカツクリで行われた研究では、巣の温度によって孵る雛の性比が変わることが分かっています。これは、ワニやカメなどの爬虫類のように温度によって個々の卵の性が決定するのではなく、適切な温度からずれた環境で卵が温められた場合、雌雄によって死亡率が変わることによって起こります。最適な温度である34℃ではオスとメスが1対1で生まれるのですが、それよりも低い31℃ではメスの死亡率が高くなり、反対に36℃ではオスの死亡率が高くなるために、温度によってオスが多くなったりメスが多くなったりするのです。この温度による雌雄の生存率の差を利用して、親が性比を調整しているのかは分かっていません。

次回は、卵が孵ってからのお話です。

[参考文献]
Göth A & Booth DT (2005) Temperature-dependent sex ratio in a bird. Biology Letters, 1(1): 31–33.