ヘラというよりトング:ヘラサギの採餌
ヘラサギは、その名の通りヘラのような形の大きな嘴(クチバシ)をもった鳥です。日本でも稀に見られます。この特徴的な嘴を使って、何をどのように食べるのでしょうか。
ヘラサギとは?
ヘラサギ Platalea leucorodia は、ペリカン目トキ科ヘラサギ属の鳥です。サギと名がついていますが、サギ科ではなくトキ科の鳥です。体長80 – 90cm、体重1.5kgほどで、ダイサギと同じか少し小さいくらいの鳥です。ユーラシア大陸の中緯度地域とインドで主に繁殖し、冬季にはインド、中国南部、台湾、北アフリカなどに渡ります。インドでは、越冬のみおこなう地域と繁殖と越冬を行う地域があります。ヨーロッパや中東地域にも、越冬地や繁殖地が点在します。日本では、北海道から南西諸島まで冬季に飛来した記録がありますが、年に数羽程度しかみられない珍しい鳥です。
1960年代から70年代に鹿児島出水平野に毎年数十羽が飛来していましたが、近年毎年確実に飛来するといえる地域は日本にはないと言われています。比較的よく見られるのは九州地方で、クロツラヘラサギと混ざって数羽みられたという報告が度々あります。日本で見られることは珍しい鳥ですが、世界的にはそれほど少なくない種と考えられています。
ヘラサギの採餌方法
1月中旬、奈良市のため池で一羽のヘラサギを発見しました。個体の性質なのか種の性質なのかわかりませんが、警戒心が非常に低く、人だかりができていたにも関わらず、そこから数メートル離れた場所で衆目を気にすることなく熱心に採餌していました。
全身が白く、水辺に立つ姿は遠目にはダイサギのようですが、嘴が明らかに大きい印象を受けます。それになんといっても採餌方法が全く異なります。
ヘラサギは、開けた嘴を垂直に水につっこみ、首を左右に振りながらゆっくり移動します。目も水の中に浸かるほど、嘴を深く水中に入れます。嘴に餌となる生き物が触れると急に動きが早くなり、獲物を追いかけ回してヘラ状の嘴で捕まえます。餌を捕まえると、掴み上げて口の奥の方に運びます。食べるものは、魚、貝類、カニ、エビ、オタマジャクシなどです。
サギの仲間はとにかく水の中を見つめ、獲物を見つけると嘴を上からまっすぐ水面に入れ、獲物をくわえて捕らえます。ヘラサギはそれに比べると、手探りで餌を探しているかっこうです。サギ類の細くて長い嘴は水の抵抗を最小限にして素早く水中に突き入れ、魚を捕らえることに適していると考えられます。
一方、ヘラサギは水中でスイングしながら手探りで獲物を探し、時には手探りで追いかけ回して捕まえるため、掴む部分が広いヘラ状の嘴の方が獲物の捕獲成功率があがると考えられます。
前回紹介したハシビロガモも横に広がった嘴を持ちますが、こちらは動物プランクトンを効率よく濾し取るための構造であり、同じ幅広い嘴といっても異なる用途です。ヘラサギと名がついていますが、その嘴の使い方としてはヘラというよりトングです。