ボロボロギシギシ

2024年4月30日 生物

春先にギシギシの葉がやたらと穴だらけになっている光景、なんとなく見たことがある気がする人もいるかもしれません。実はこれは、春にしか姿を見せない甲虫の仕業です。今回はコガタルリハムシというハムシのお話です。

コガタルリハムシとは?

コガタルリハムシ
コガタルリハムシ Gastrophysa atrocyanea は体長5-6mmほどの小さな甲虫です。北海道から九州に分布し、成虫、幼虫ともにギシギシ類、スイバ、イタドリの葉を食べます。

一斉に食害を受けるギシギシの葉

エゾノギシギシ

コガタルリハムシに食害を受けたエゾノギシギシ

4月はじめ、エゾノギシギシの葉がコガタルリハムシによって強い食害を受けていました。この時期、成虫、幼虫、卵すべての段階をギシギシの葉の上で見ることができました。

コガタルリハムシの幼虫

コガタルリハムシの幼虫

光沢のある真っ黒の色にトゲのある体。拡大してみると、強そうな怪獣のようです。

コガタルリハムシの卵

コガタルリハムシの卵

コガタルリハムシは春に卵から孵って幼虫、そして土中で蛹になり、6月上旬に成虫になります。6月中旬には土中で休眠を始め、そのまま翌年まで休眠し、4月頃に地上に出て卵を生む年一化です。エゾノギシギシは春から秋まで葉を出しますが、コガタルリハムシは春だけに発生するため、葉がコガタルリハムシによって穴だらけにされるのは、この短い期間だけです。

残り物には福がある? 毒のある葉を好んで食べるコガタルリハムシ

コガタルリハムシの幼虫によって食べられているエゾノギシギシの葉

コガタルリハムシの幼虫によって食べられているエゾノギシギシの葉

エゾノギシギシはシュウ酸を多く含むため、哺乳動物や昆虫にとってあまり魅力的な食べ物ではありません。しかし、コガタルリハムシは腸内の共生細菌によってシュウ酸を無毒化することができます。他の生物が餌資源として利用するには難しいものを利用できるようになったことで、コガタルリハムシはエゾノギシギシの葉を独占的に食べることができます。

エゾノギシギシ

群生するエゾノギシギシ

また、エゾノギシギシは同種が高密度で生育している場所では、より多くタンニンを作ることが報告されています。タンニンは、私達ヒトには渋みとして感じる成分です。タンニンの蓄積は、昆虫や哺乳動物などの動物による被食を低減する効果があると考えられます。しかし、コガタルリハムシはそのタンニンを多く含んだエゾノギシギシの葉により多く集まるようです。

コガタルリハムシは、タンニン濃度を指標として、高密度でエゾノギシギシが生えているパッチを選んでいるのかもしれません。あるいは、タンニンが多い葉は他の動物に食べられにくく残されやすいため、餌資源の取り合いの程度が穏やかである可能性も考えられます。いずれにしろ、一個ずつ卵を移動しながら産み付けるチョウと異なり、コガタルリハムシは一箇所に数十個の卵を生むため、翅を持たず移動能力が小さい幼虫たちが餌資源に困らないような場所に卵を産むことは、子の生存率を上げるために重要であると考えられます。

 

[参考文献]
大坪和香子. 2019. 外来雑草エゾノギシギシを摂食するコガタルリハムシの腸内シュウ酸分解細菌の共生機能の解明. 発酵研究所 第13回助成研究報告会. https://www.ifo.or.jp/rc_pdf/ootsubo.pdf
Ohsaki, H., Miyagi, A., Kawai‐Yamada, M., and Yamawo, A. 2022. Intraspecific interaction of host plants leads to concentrated distribution of a specialist herbivore through metabolic alterations in the leaves. Functional Ecology 36: 779–793. doi:10.1111/1365-2435.13988.