美味しくなさそうなソテツを食べるクロマダラソテツシジミ
寺社でよく見かけるソテツ、葉は分厚くて硬くていかにも食べにくそうです。しかし、この美味しくなさそうな葉っぱを食べるチョウがいます。
クロマダラソテツシジミとは?
クロマダラソテツシジミ Luthrodes pandava は、チョウ目シジミチョウ科のチョウです。名前にソテツと付く通りソテツの葉を好んで食べるチョウです。基本的にはソテツの新芽を食べますが、3齢以降の幼虫は新芽がなくなると成長した葉を食べることもあるようです。ソテツの葉は硬いだけでなく、毒も含まれていますが、クロマダラソテツシジミは特殊な腸内細菌をもっているため食べることができます。また、マメ科やミカン科の植物を摂食したという報告もあります。
日本にやってきた南方系のチョウ、クロマダラソテツシジミ
クロマダラソテツシジミは、ソテツ Cycas revoluta 以外のソテツ属も食べます。ソテツ属の植物は、南アジアから東アジア南部、東南アジア、オーストラリア北部などの熱帯から亜熱帯域に分布します。クロマダラソテツシジミもインドから中国南部、東南アジアなどに分布し、分布域はソテツ属が自生する地域と重なっています。
しかし、近年は日本でもクロマダラソテツシジミが見られます。日本で初めての確認は1992年の沖縄本島です。その後はしばらく報告がありませんでしたが、2006年に八重山諸島で確認されて以降、2007年には、沖縄や九州、兵庫、大阪などで発見され、その後も継続的に日本の関東以南で報告されています。しかし、低温に弱いため、南西諸島より北の地域では今のところ越冬することはできず、毎年風に乗って南方から飛来していると考えられています。気温30度では卵から成虫になるまで12日ほどしかかからないため、飛来が少数の地域であっても暖かいうちにすぐに個体数を増やすことが可能です。また、餌資源となるソテツはソテツ目の中で日本に自生する唯一の種であり、自生地は九州以南ですが、植栽であれば本州でも生育可能であるため、クロマダラソテツシジミの幼虫が餌資源として利用することができます。
どうして近年急速に日本でみられるようになったのか。
沖縄での定着は、他の多くの分布が北上している生物と同様に温暖化の影響が指摘されていますが、台湾でソテツが多く栽培されるようになったことも要因ではないかという指摘があります。沖縄に定着したことにより、暖かい時期に九州以北に移動することが容易になったのに加え、一度侵入してしまえばソテツの自生地ではない本州でも幼虫が植栽されたソテツを食べて短期間に何世代も繁殖し、爆発的に増えることができるため、日本で急速にクロマダラソテツシジミがよくみられるようになったと考えられます。
[参考文献]
平井則夫 (2009) 日本におけるクロマダラソテツシジミの発生と分布拡大. 植物防疫, 63: 365–368.