コンクリートの上で動く赤い点

2025年5月13日 生物

日差しが少し暑く感じられるようになったころ、コンクリート上で赤い小さな生き物が歩き回っているのをみたことがあるかもしれません。この生き物は、カベアナタカラダニというダニの仲間です。

カベアナタカラダニとは?

カベアナタカラダニ

カベアナタカラダニ

カベアナタカラダニ Balaustium murorum は、タカラダニ科アナタカラダニ属のダニです。体長は1mmほどです。アフリカ北部、ヨーロッパから日本に分布します。日本では1970年から1980年代頃からよくみられるようになり、現在では日本全国に生息します。主に花粉を食べますが、トビムシやアブラムシを捕食することもあることが報告されています。タカラダニ科のダニの中にはセミやカマキリといった昆虫に寄生するものがいますが、カベアナタカラダニは生涯を通して他の生物に寄生することはありません。

和名の由来は、壁でみられる、アナ(ウルヌラと呼ばれる特殊な分泌器官)をもつタカラダニです。天敵に襲われるとこのウルヌラから赤い分泌液が出ます。この分泌液は、同種に対しては警戒フェロモンとして働き、捕食者に対しては捕食されにくくする働きがあると考えられています。また、全身に塗ることにより乾燥を防ぐ役目もあるのではないかと考えられています。

カベアナタカラダニは3月頃からみられるようになり、5月頃にもっとも多くみられ、6月ごろに卵を生み、7月頃にはほとんどみられなくなります。6月頃から次の春まで卵の状態で休眠します。

なぜコンクリートの上にいるの?

カベアナタカラダニ

コンクリート上のカベアナタカラダニ

太陽に熱せられ触れるのも熱いコンクリートの上で動き回っているのをみて、こんな過酷な環境で一体何をしているのだろうという疑問に思います。実は、コンクリート上には意外と多くの花粉が付着しており、カベアナタカラダニの餌場となっていると考えられています。また、高温になったコンクリート上ではカベアナタカラダニの捕食者は生存できません。つまり熱せられたコンクリートは、カベアナタカラダニにとって安全に食べ物を得られる場所なのです。自然環境下でも日当たりの良い岩場に生息します。

赤い色が紫外線から身を守る

カベアナタカラダニ

カベアナタカラダニ

カベアナタカラダニの赤色の色素は、ケトカロテノイドのアスタキサンチン、3-ヒドロキシエキネノン、β-カロテンによって構成されています。これらのケトカロテノイドには抗酸化作用があり、強い紫外線や高温に対して彼らが耐性を持つことに寄与するものと考えられています。すなわち、カベアナタカラダニが他の生物が生存できない熱せられたコンクリートのような環境で暮らしていけるのはこの赤い色素のおかげであると考えられます。

【参考文献】
大野正彦. “カベアナタカラダニの生態と防除 -新たな知見を加えて-“. Pest Control TOKYO. https://www.pestcontrol-tokyo.jp/img/pub/070r/070-03.pdf

Masahiro Osakabe & Satoshi Shimano (2022) “The flashy red color of the red velvet mite Balaustium murorum (Prostigmata: Erythraeidae) is caused by high abundance of the keto-carotenoids, astaxanthin and 3-hydroxyechinenone”, Experimental and Applied Acarology 89: 1-14.