知っているつもり:蛍なぜ光る?

ホタルの発光は、オスとメスが出会うために行われる。いかにももっともらしい説明ですし、そのような種も確かにあります。しかし、実は成虫が光るホタルはそれほど多くありません。一方で、卵や幼虫期に発光するホタルは多くいます。どうして、まだ交尾を行わない段階の卵や幼虫が光るのでしょう。
オスとメスが出会うために発光する

ヘイケボタル Photo byAlpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ホタルの中には、オスとメスがコミュニケーションを取るために光る種類がいることはよく知られています。例えば、ヘイケボタルについては、草の上を歩いているオスや交尾後のメスは約1秒間の発光の間に4~5回瞬きをします。一方で交尾前のメスは瞬かずに短く発光することが報告されています。この瞬きの有無によって、オスは交尾前のメスを見分けているのではないかと考えられています。 ちなみに、飛んでいるホタルのほとんどはメスを探しているオスです。
天敵に有毒であることを知らせるために発光する

光るホタル Photo by @yb_woodstock さん https://www.flickr.com/photos/yellow_bird_woodstock/, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
ホタルの仲間の中には、卵や幼虫の段階では発光するものの、成虫になると発光しなくなる種が多く存在します。このような種では、光を繁殖活動に用いているとは考えにくく、発光には別の役割があると考えられます。
一説には、発光は捕食者に対する警告である可能性が指摘されています。ホタルの中にはブファジエノライドという強心作用をもつ毒を保有している種もおり、発光がその毒の存在を捕食者に知らせる「警告発光」であると推察されます。すなわち、ハチの縞模様やテントウムシの派手な色と同様に、視覚的に危険を示す「警告色」と似た働きをしていると考えられます。
また、一般的に卵や幼虫は成虫に比べて移動能力が低く、天敵からすばやく逃げることが困難です。したがって、捕食されるリスクの高いこれらの段階でこそ、警告としての発光が特に重要であると考えられます。このため、卵や幼虫の時期にのみ発光するホタルが多く存在するのかもしれません。
ホタルの毒を利用するヘビ

マドボタルの一種
ホタルが持つブファジエノライドは、ホタル1匹あたりではごく微量であり、人に対してほとんど毒性を示さない程度です。しかし、この毒を体内に蓄積し、利用することができるヘビが存在します。
ヤマカガシの仲間はヒキガエルを捕食することでブファジエノライド類を体内に取り込み、その毒を蓄積して利用することが知られています。しかし、イツウロコヤマカガシという種はヒキガエルを食べません。近年、本種はマドボタル亜科に属するホタルを捕食することでブファジエノライド類の毒を得ていることが示されました。
【参考文献】
Takatsu H, Minami M & Oba Y (2023) Flickering flash signals and mate recognition in the Asian firefly, Aquatica lateralis. Scientific Reports, 13: 2415.
Yoshida T, Ujiie R, Savitzky AH, Jono T, Inoue T, Yoshinaga N, Aburaya S, Aoki W, Takeuchi H, Ding L, Chen Q, Cao C, Tsai TS, de Silva A, Mahaulpatha D, Nguyen TT, Tang Y, Mori N & Mori A (2020) Dramatic dietary shift maintains sequestered toxins in chemically defended snakes. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 117(11): 5964–5969.