動物の群れと聞くと、シマウマやサルなどの同種の個体が集まって移動したり採食したりする様子を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、群れを作るのに必ずしも同種である必要はありません。今回は、複数種で群れをなす混群についてのお話です。
混群とは?
複数種で作られた群れのことを指します。鳥について報告されることが多いですが、魚や有蹄類、霊長類などでも見られます。日本では、鳥類のシジュウカラやヤマガラなどシジュウカラ科に属する種の群れ、もしくは混群に、ゴジュウカラ(ゴジュウカラ科)やコゲラ(キツツキ科)、メジロ(メジロ科)などが加わった混群が見られることがあります。
いつ、どこで見られるの?
鳥の混群は、日本では非繁殖期である秋から冬にかけて見られます。森林や公園などで見られますが、市街地の小さな河川沿いでも見られることがあり、意外と身近なところで混群を作っていることがあります。人がゆっくり歩く速さと同じくらいの速さで移動するため、立ち止まって見ているとあっという間に通り過ぎてしまいます。また、いつも同じ場所で同じ時間に現れるというわけでもないため、出会えるかどうかは運次第です。
どうして混群を作るの?
鳥が混群を作る理由については、まず、混群に参加するすべての個体にとって、捕食回避のメリットがあるのではないかと言われています。複数の個体と一緒に動くことによって、捕食者を早く見つけて逃げることができると考えられます。
また、混群を組むことによって、鳥の種によって異なった利益を得ている可能性も示唆されています。マダガスカル島で行われた研究では、混群を形成する個体は以下の理由により採食効率が向上すると考察されています。
- 単独もしくは同種の群れにいるときよりも捕食者を警戒して周りを見渡す時間が減る(採食時間の増加)
- 他種の鳥が見つけた餌をかすめ取ることができる(労働寄生)
- 複数個体で移動することにより、植物に隠れていた飛翔性の昆虫が一気に飛び出したものを捕獲できる(追い出し)
- 他の鳥の採餌場所や方法を真似して効率が上がる(社会学習)
鳥の社会学習と聞いてもピンとこないかもしれませんが、混群を構成する個体は普段とは異なる採餌パターンを示すことから、他の鳥の採餌行動を学習していると考えられています。これら4つのどの利益をどの程度享受するかは、それぞれの種の行動パターンや採餌様式、他種との力関係の優劣によって、異なることが示唆されています。
仲良しグループというわけでもない混群の構成員
群れのメンバーはみんな協力関係なのかというとそうでもないらしく、他種の鳥が見つけた餌をかすめ取るといった行動(労働寄生)は、マダガスカルの研究では特定の種で何度も観察されているようです。混群内では追従する種と先行する種に分かれていることが多く、特に温帯では、マダガスカルよりもはっきりと追従する種が先行する種の餌をかすめ取る行動が観察されるようです。かすめ取られる方の種は、混群を組むことによりかすめ取られるという不利益があるということになりますが、それでも採餌時間の増加などの利益が勝ることのほうが多いと考えられます。
混群に出会ったとき
混群に出会うと、まず、急に鳥の鳴き声がにぎやかになったと感じます。いろいろな種類の鳥の鳴き声がいろいろな方向から聞こえてきます。なんだろうと思って立ち止まり、周囲を見渡すと小さな鳥が何羽も近くの枝や地面づたいに飛び移って来るのが見えます。まるで、小鳥と戯れる白雪姫のようになった気分です。混群にいる鳥は普段ならめったに近寄らないほどの距離までやってきて、鳴きながら餌を探します。そのため、鳥に好かれたんじゃないかと思ってしまうほどです。ですが、人がゆっくり歩くぐらいの速さで移動している群れは、あっという間にどこかに行ってしまいまい、やはり自分が白雪姫であると言うのは幻想に過ぎなかったことに気づきます。それでも、なんだかウキウキした気分になれるのが混群との遭遇です。
[参考文献]
Hino T. Mutualism and Commensalism in Avian Mixed-Species Flocks in a Western Forest of Madagascar. Primate Res. 1997;13:121-127.