アリを騙すアリ
2023年11月20日
生物
「おれの名をいってみろ!!」って言ってきそうな、厳ついトゲを持ったアリがいます。その名は見た目の通り、トゲアリ。なんとも個性的な見た目ですが、本州に広く分布する普通種です。このアリ、他のアリの巣を乗っ取って寄生するという特殊な生態をもちます。
トゲアリとは?
トゲアリ Polyrhachis lamellidensは、ハチ目アリ科トゲアリ属に属する体長7 – 8mmほどのアリです。トゲアリ属のアリは日本に4種いますが、本州に分布するものは、チクシトゲアリと本種の2種だけです。トゲアリは胸部が赤く、前胸と中胸にトゲをもち、腹柄節にも先端が強く湾曲した一対のトゲを持ちます。同属のチクシトゲアリと比べ、明らかに腹柄節がトゲが大きいため、同定は容易です。
どこにいるの?
国外では朝鮮半島、中国、台湾に、国内では本州から屋久島に分布します。雑木林に生息し、巣は立木の根元付近のうろによく作られます。営巣場所が樹木のうろであるため、生息にはある程度大きな木が生育する森林である必要があると考えられています。コロニーサイズは、数100〜1000個体ほどで、ワーカーは樹上で活動することが多いです。
他のアリの巣を乗っ取るトゲアリ
トゲアリは、クロオオアリやムネアカオオアリの巣を乗っ取ることが知られています。ちなみにクロオオアリもムネアカオオアリも、ワーカーの体長は8〜12ミリほどあり、7〜8mmほどのトゲアリよりも大きなアリです。
トゲアリは、以下のような手順で別種のアリの巣を乗っ取ります。
- トゲアリの女王は、一匹で宿主であるアリの巣に侵入します。宿主のワーカーの攻撃を受けながらも、ワーカーに馬乗りになって体表を舐め回し、そのあと自分の前脚を舐め、その前脚を自分の体全体にこするつけるという行動を取ります。この行動により、宿主のワーカーのニオイを自分の体につけ、宿主のワーカーからの攻撃を回避していると考えられています。
- ワーカーからの攻撃がある程度回避できるようになると、トゲアリの女王は宿主の女王を噛み殺します。飼育下では、トゲアリの女王は2〜4日間、宿主の女王の頸部に噛みつき続けたとの報告があります。
- 宿主女王の死後、トゲアリの女王は卵を生み、宿主のワーカーにそれらの世話をさせます。
- 宿主の女王が死んでいるため、宿主のワーカーは新たに生まれることはありません。そのため、最終的には、巣はトゲアリのみのコロニーになります。
このように、トゲアリは、コロニーの創設のはじめの頃のみ別種のアリのワーカーに労働をさせるという形で寄生します。この寄生様式は、一時的社会寄生と呼ばれます。
参考文献:
井戸川直人 2011. 特集:SS リーグ研究報告 侵略者はいかにして女王となるのか―トゲアリの一時的社会寄生のメカニズム―. つくば生物ジャーナル 11. Available: https://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol10No6/TJB201106NI.pdf