クモに寄生し、好みの網を作らせるクモヒメバチ
ハチの仲間には、他の昆虫に寄生する種が多くあります。モンシロチョウの幼虫に寄生するアオムシサムライコマユバチは特に有名です。しかし、ハチの寄主は昆虫だけではありません。今回は、クモに寄生するクモヒメバチのお話です。
クモヒメバチ類とは?
クモヒメバチ類 Polysphincta group of genera には、ヒメバチ科ヒラタヒメバチ亜科フシダカヒメバチ族に属する23属240種が含まれます。クモヒメバチ類は単系統であるため、これらの240種はクモの体に外部寄生する1種の祖先種から派生したと考えられており、全ての種がクモに寄生します。クモヒメバチ類のクモ成虫への寄生は、蛾類の繭に寄生し繭を探す能力を持っていたものがクモの糸を探し出せるようになってクモの卵塊を利用するようになり、クモの卵塊を利用するものの中から、その卵塊を守る母グモにも寄生できるようになった種が出現したことが起源と考えられています。なお、卵塊に寄生するものを含めると、クモ寄生への進化は、寄生バチ全体では何度も起こっているようです。
クモヒメバチ類に寄生され、操られるクモ
クモヒメバチ類の寄主特異性は強く、クモの種それぞれに別の種のクモヒメバチが寄生すると考えられています。ギンメッキゴミグモ Cyclosa argenteoalba というクモにもクモヒメバチの一種のニールセンクモヒメバチ Reclinervellus nielseni が寄生します。
以下は、ギンメッキゴミグモへのクモヒメバチの寄生の様子についてです。
- まずクモヒメバチは、寄主となるクモに一つだけ卵を産み付けます。
ウジのような形をしたクモヒメバチの幼虫は、クモの体の外側に取り付き、クモを生かし、いつもどおりの生活をさせながら体液を吸い大きくなります。 - 孵化から10日〜14日後に蛹になる準備を始めます。クモの動きを操作して非常に単純なクモの巣を作らせます。操られたクモは、円網(最も一般的なクモの巣の形)の横糸(虫を捕らえるために張られた同心円の糸)をすべて外し、中心から外側に伸びる6,7本の縦糸を何度も何度も通って太くしていく行動を取ります。
この蛹用に作らせたクモの巣は、クモが自らの脱皮用に作る「休息網」に似ていますが、クモヒメバチが作らせた網の中心部は、その休息網の30倍の強度があります。また、紫外線を反射する「装飾糸」がついており、鳥や昆虫がぶつかりにくくなる効果があると考えられています。 - 蛹になって10日後に成虫になります。
【参考文献】
高須賀圭三. 2015. 「クモを利用する策士、クモヒメバチ 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い」 東海大学出版部.
Takasuka, K., Yasui, T., Ishigami, T., Nakata, K., Matsumoto, R., Ikeda, K., and Maeto, K. 2015. Host manipulation by an ichneumonid spider ectoparasitoid that takes advantage of preprogrammed web-building behaviour for its cocoon protection. J. Exp. Biol. 218(15): 2326–2332. doi:10.1242/jeb.122739.
神戸大学. 2015. 「クモが天敵ハチのベッドメイキング ―寄生バチがクモを操作し特定の造網行動を誘発していることを発見―」Available at https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2015_08_06_01.html (2023年4月1日閲覧).