潮の流れに身をまかせ

2024年11月12日 生物

固着性の生物と聞くとある場所から移動せず、同じ場所で生活する生物を想像するかもしれません。しかし、それは固着したものが動かないものである場合です。今回は、海に浮遊するものに固着し、流浪の旅をする生物についてのお話です。

カルエボシとは?

カルエボシ

カルエボシ

カルエボシ Lepas anserifera はエボシガイ科エボシガイ属に属する蔓脚類(フジツボ類)に分類される生物です。世界中の熱帯から亜熱帯地域の海に生息します。一見、貝のように見えますが、貝はイカやタコが属する軟体動物門です。一方、カルエボシは昆虫やエビ、カニ、フジツボなどが属する節足動物門に分類されるため、貝とは分類的に非常に遠い関係です。

殻の中から出てくる奇妙な器官

カルエボシ

蔓脚には細かい毛がたくさん生えている。

カルエボシは蔓脚(「まんきゃく」もしくは「つるあし」)と呼ばれる器官を出して、海中に浮遊するプランクトンを集めて食べます。ちなみにこの蔓脚は、カルエボシでは体を支持したり移動に使ったりするものではありませんが、脚と名がついている通り同じ節足動物であるエビの脚に対応する部分です。ちなみに貝殻のような外側の殻は、カニの甲羅と相同です。

カルエボシの生き方

カルエボシ

カルエボシ

カルエボシは生んだ卵を一週間ほど抱え、幼生になると放出します。幼生は海中を漂うプランクトンですが、成長すると軽石、流木、プラスチック、船体など、主に海に浮かぶものにくっつきます。浮遊物に高密度にくっついていることがよく観察されます。同様に固着生活をするフジツボでも群生することが多いです。これらの固着生物は成体になってから移動することが困難なため、繁殖は生殖器が届く範囲にいる個体とのみ行います。そのため、個体密度の高い場所にいるほうがより多くの個体と繁殖できる可能性があります。このことが、これらの固着生物が他個体の近くに選択的に固着し、高密度になる理由であると考えられています。ちなみに、カルエボシが付着する浮遊物の大きさは、船のような大型のものから直径数センチの軽石まで様々です。

浮遊物に固着することのリスク

カルエボシ

カルエボシがたくさん打ち上げられていた浜辺

浮遊物に固着すると自分で移動するコストを払うことなく世界中に拡散することができますが、一方で生息に適していない環境に運ばれてしまうリスクが岩などの動かないものに固着するよりも高くなると考えられます。浜辺では流木などにくっついてそのまま打ち上げられてしまっているカルエボシをたくさん見つけることができます。打ち上げられると、蔓脚をしまい込んでかっちり外側の殻を閉めて乾燥から身を守ります。

カルエボシ

打ち上げられて殻をしっかり閉じたカルエボシ

打ち上げられたものを海水につけてみると、しばらくしてから蔓脚が出てきました。

カルエボシは、基本的には暖かい海に生息する生物ですが、海流に乗って高緯度に運ばれてしまったものも見つかるようです。自分で行き先を決めない生き方には多くのリスクが伴うようです。