ミヤマニガウリの性の話

植物の多様な性表現
わたしたちが普段目にする花の多くは、雌しべと雄しべ両方がある「両性花」(例:アサガオ)で、雄と雌の区別がありません。でも、植物全体を見渡すと、動物のように雄と雌の個体が分かれている植物や(雌雄異株、例:アオキ)、同じ個体が雄しべしかない雄花と雌しべしかない雌花をつける植物など(雌雄異花同株、例:ブナ)、多様な「性」がみられます。なぜ植物の性表現がこんなにも多様なのかは、ダーウィン以来植物研究の重要なテーマの一つとなっています。
変わり種のミヤマニガウリ
その中で、両性花のみをつける個体(両性個体)と雄花のみをつける個体(雄個体)がいる「雄性両全性異株」は、30万種といわれる世界の被子植物のうち50種ほど、という一番の変わり種です。
日本、中国、韓国などに分布するミヤマニガウリは、そのうちの1種です。8月になると、ミヤマニガウリの両性個体は葉腋に一つだけ、一方の雄個体は葉腋から伸びた花序にたくさんの花を咲かせます。


雄個体は神出鬼没!?
雄性両全性異株の植物が少ないのは、その進化的不安定さにあると考えられています。雄個体は、両性個体に自分の花粉を届けることができて初めて子孫を残すことができます。もし近くに両性個体がいなかったり、花粉を運ぶ送粉者が来てくれなかったりすれば、雄個体は自分の遺伝子を残せず、集団は両性花をつける両性個体だけになってしまうでしょう。
実際、ミヤマニガウリが生えていても、雄個体が必ずいるわけではありません。集団によって雄個体の比率はさまざまで、両性個体だけの集団もしばしばみられます。
しかし、送粉者が十分いる場合、両性個体が多い集団では、少数派の雄個体のほうが有利かもしれません。種子を作る必要のない雄は、光合成でためた資源をすべて使って多数の花で送粉者を引き付け、父親(花粉親)として多くの子どもを残すことができるからです。
ミヤマニガウリの雄個体の比率がどんな条件で変化するのかは、まだはっきりとわかっていません。ミヤマニガウリの雄個体は、標高が高い場所ほど少なくなることが観察されていますが、これは標高が高いと気温が下がって送粉者の活動時間が短くなるためかもしれません。また、同じ場所でも、今後温暖化やその他の人為的影響によって雄の比率が変化する可能性もあります。

Biomeで、雄個体がどんなところにいるか調べよう!
このたびアプリBiomeでは、研究者と協力し、ミヤマニガウリの分布調査を行います。
アプリ内で開催中のクエスト「ミヤマニガウリの雄はどこにいる?」に、ぜひご挑戦ください!
ミヤマニガウリの雌雄の見分け方は、クエストの「ガイド」ページで詳しく解説しています。
クエスト期間:8月1日(金)~9月30日(火)
対象エリア:指定なし(どこでもOK)

クエスト監修者からの一言

Biomeでの観察が蓄積されれば、どんな場所にミヤマニガウリの雄個体がよく見られるのか、全国規模の地図を作ることができるかもしれません。皆さんの発見情報をお待ちしています!
酒井章子(香港浸会大学 地理学科 准教授、総合地球環境学研究所 客員教授)