非常に難しいマングースの根絶

2019年3月20日 ALL生物
マングースの一種 Photo by Donald Hobern

前回は、マングースが生態系に大きな影響を与えていることについてお話しました。今回は、10年以上沖縄で取り組まれてきたマングースの駆除とその成果についてお話します。

マングースの駆除

マングースの駆除は、2000年から沖縄の北部のやんばる地域で始まりました。2005年からはマングースの捕獲率が下がってきました。捕獲率の減少は、マングースの生息数が減少したことを示します。それに伴い、生息数の回復が見られる在来種も出てきました。しかし、もともと沖縄に入れられた、たった17頭のマングースが推定3万頭に増え、最北端の一部の地域を除く沖縄全域に広がりました。沖縄の環境にうまく適応できてしまうマングースは、根絶をしない限り放っておけばまた増えると考えられます。しかし、沖縄の北部でおこなっているような捕獲罠の設置を、南部にまで広げるのは、コストの面から不可能であり、現在は、在来の希少種が多く生息している、沖縄北部地域のみでの根絶を目指して捕殺が行われています。マングースが北上しないように柵も設置されていますが、人が利用する道まで封鎖することはできないため、完全にマングースを封じ込めるのは不可能です。つまり、北部での根絶が成功しても、少なくとも境界付近ではずっと捕殺を続けない限り、その状況を維持することは困難です。いたちごっこならぬマングースごっこの状態です。

捕殺罠のジレンマ

マングースを捕獲するにあたり、カゴ罠と筒罠が使用されています。カゴ罠は、動物が入ると網のカゴの入り口が閉まる一般的な罠です。カゴ罠は生け捕りにすることが可能ですが捕獲率は筒罠に比べて低いようです。一方、筒罠は、マングースの狭いところに頭を突っ込んで餌を探す行動を利用します。マングースが餌の臭いにつられて筒に頭を入れると、中に入っている紐によってマングースの首が絞まるという構造になっています。

マングース筒罠

マングースの筒罠

この筒罠を使用すると、捕らえられた生き物は、必ず死んでしまいます。罠にかかるのがマングースだけなら良いのですが、保護したいケナガネズミなど他の小型哺乳類も罠にかかってしまうことがあります。

ケナガネズミ

絶滅危惧種、ケナガネズミ Image from Wikipedia

特に、マングースの生息密度が低下し、在来種の生息数が増えてきた地域では、マングースの捕獲がより困難になっている一方、相対的に、在来種が頻繁に罠にかかるようになります。このような地域では、捕獲率の低い箱罠を使って、生け捕りにし、在来種を殺してしまわないようにしています。マングースの罠の設置は、マングースの個体数が減るほど、捕獲率の悪い罠を使用しなければならないというジレンマを抱えているようです。

世界の島々にも侵入するマングース

生物的防除を目的として、マングースを導入したのは、日本だけではありません。1872年にジャマイカに導入されて以降、世界の島々で導入されました。現在では、導入された島からマングースが偶然流れ着いて定着したと考えられる島も含めて、少なくとも76の島で定着が確認されています。国際自然保護連合(IUCN)は、マングースを世界の侵略的外来種ワースト100に指定し、日本生態学会もマングースを日本の侵略的外来種ワースト100に指定しています。現在、捕獲駆除などによって、根絶が成功した島は、カリブ海の6つの島と、フロリダのドッジ島のみといわれ、いずれも非常に少面積の島です。根絶に成功した島のうち最大面積であるドッジ島でも面積は、4平方キロメートルほどしかなく、しかも侵入の翌年には根絶していることから、島中に広がりきる前に早く駆除をしたことが功を奏したと考えられます。ちなみに、沖縄の面積は、1208平方キロメートルあります。

マングース問題の現状

沖縄では、2000年以降のマングースの捕殺によって、在来種の絶滅の危機は、小さくなったと考えられます。しかし、マングースの根絶は、困難であり、捕殺し続けないと簡単に逆戻りしてしまうという点で、やはり予断を許さない状況が続いているといえます。マングースの問題は、沖縄の生物相を保全していくにあたり、不断の努力が必要とされる深刻な問題といえます。

食べ物を探すマングースの一種

参考文献: 山田文雄・池田透・小倉剛 編(2011)「日本の外来哺乳類 管理戦略と生態系保全」東京大学出版会