里山保全の意義

2018年4月18日 ALL生物
里山の風景

みなさんは、里地・里山って聞いたらどんなイメージですか?豊かな田園風景が広がって、その近くには雑木林があって、四季折々の花や木の実を楽しめる場所。苔むす原生林も素敵だけど、里山のあるのどかな環境もいいと感じられる方も多いことと思います。

カタクリの花

カタクリの花 Kropsoq / CC BY-SA

そんな素敵な里山ですが、1950年代以降、日本のあちらこちらでその姿を消してきています。背景にあるのは、薪炭材利用の低下と、化学肥料の使用量の増加。里山を維持・管理する人が居なくなってしまったのです。里山の生物相は、原生林の生物相とは異なります。原生林では、常緑樹のシイ・カシ類が優占する地域であっても、人間が樹木を薪炭材に利用するために、定期的に樹木を伐採することで、コナラやミズナラ、クヌギなどの落葉樹や、針葉樹である松が優占する森林が形成されます。このような森林の林床は、常緑樹林の林床よりも明るいです。また、畑に用いる肥料のために落ち葉を集めて、林床から取り去ることは、落ち葉の下に埋もれてしまいかねないスミレやカタクリなどの生育に寄与します。人為活動によって維持されている里山の環境は、その活動がなくなってしまうと、原生的自然に戻ってしまい、林床は暗くなってしまいます。その結果、明るい林床を好む植物は生育できなくなります。

スミレの花

スミレの花

里山が減少し始めた頃から、長らくの間は、里山の減少があまり大きな問題として捉えられてきませんでした。と言うのは、「守るべき自然」が原生的な自然のみだとされてきたからです。いわゆる「原生林至上主義」。里山は、人間が手を入れてしまって劣化した守るべき価値のない自然という扱いを受けてきました。ところが、1980年代ごろから少しずつ、里山の重要性が見直されてきました。里山の良さを描いたとなりのトトロはちょうどその頃の作品です。里山は原生的な自然とは異なる独特の生態系を有しています。驚くべきことに、一般に、里山は原生林より種の多様性が高いことが知られています。一概に劣化した森林と捉えるのは適当ではありません。手付かずの自然が残されている場所の保全が重要なのは、言うまでもありませんが、里地・里山を守っていくことも力を入れていかねばなりません。