海岸は重要な保全スポット! −海の生物多様性保全を考える−

2019年9月17日 ALL生物

陸上で生活する私達にとって、海の中の世界は森林よりも馴染みが薄く、水族館にでも行かない限り、そこに生きる生物の生きた姿を見る機会はほとんどありません。海の環境保全が重要だと言われても、陸域の環境保全に比べてピンとこない方が多いのではないでしょうか。

とてつもなく広大な海を目の前にすると、私達ができることなんてたかが知れているように感じるかもしれませんが、海岸の環境を保全することは、海の生物の種多様性の維持に極めて重要なのです。どうして海岸の環境保全が大切であるのかについて、お話ししたいと思います。

生物の種多様性が高い海岸の環境

美しい海岸
眼の前にある海岸沿いの環境を良くしたところで、奥に広がる大きな海を考えれば微々たる効果だと思う方も多いかもしれません。しかし、海岸付近の生物多様性が高いことを考えると、その保全の効果は小さくないことが分かります。一般的に、多様な環境があるほど、様々な生物が生息出来うるため、その地域の種多様性は高くなります。海岸は沖合に比べ、様々な環境が入り混じっているため、生物の種多様性は高くなると考えらます。以下に、その要因を示します。

  • 海底に届く日光は海岸から沖合に向かって徐々に減少。
  • 水深の変化に従って、水温が大きく変化。
  • 森林から川を経て海に供給された窒素やリンなどの栄養塩の濃度勾配。
  • 川から海にかけての塩分の濃度勾配。
  • 潮の満ち引きにより、海水に浸かる時間と海面から外に出る時間ができる場所が存在(例: 干潟)。
  • 潮の流れ、川からの流入した土砂の影響より、砂が集積した場所と岩盤がむき出しになった場所が混在(例: 砂浜と磯)

海岸の環境は空間異質性が高く、そのことが多くの生物種の共存を可能にしているのです。また、低次消費者の多様性は、それを捕食する高次消費者の種の多様性を生み出します。

海岸が無いと生息できない生き物

アオウミガメ

悠々と泳ぐアオウミガメ

海岸特有の環境に依存する生物は多く存在します。例えば、ウミガメは海のかなり広範囲を移動しますが、卵を産むことができる場所は、砂浜だけであるため、砂浜がなくなると、繁殖できなくなります。深海魚であるスケトウダラは、普段は深海で生育していますが、産卵の際は浅場まで上ってくることが知られています。近年話題に上ることが多いジュゴンは、海底に生えた藻を食べるため、海底に藻が生育できるだけの十分な日光が届く浅い海でしか生きることができません。そのほかにも、稚魚のうちは、浅瀬で過ごし、成長したあと移動するといった行動パターンをもつヒラメやニシンなどの魚も海岸を必要とします。このように、海岸無くして生きていけない種は多く存在します。

人の影響を受けやすい海岸

沖縄の砂浜

生物多様性のホットスポットである海岸の環境ですが、人為活動の影響を非常に強く受けやすいのも海岸です。人間は、地上生活者でありながら、海の資源も利用するため、また、低地は平地が多く住みやすいため、海岸に近い地域を居住区として好んできました。そして、防波堤を作ったり、埋立地を作ったりと、岸辺を自分の生活環境に適するように改変してきました。

砂浜のカニ

また、意図せず様相が大きく変わってしてしまった海岸もあります。砂浜です。砂浜は、川から流れ出た砂の堆積と、海へ流れ出す砂とのバランスで、維持されます。しかし、ダムの設置や、護岸工事の結果、川から海に流入する砂の量が減ると、砂浜は海からの侵食だけを受け、どんどん小さくなってしまいます。また、海岸の工事により潮の流れが変わり、海岸の侵食が始まった地域もあります。このような人為活動により、世界中で砂浜が減少しています。また、汚染水の多くも川から海に流れ込むため、岸付近では汚染物質の濃度も高くなります。生活排水などに含まれる栄養塩も高濃度になると、一部のプランクトンの大増殖を引き起こし、赤潮の発生を招きます。生物多様性の高い海岸付近でこそ、強い環境の改変が起こるのです。

海岸でのゴミ拾いの意義

青い海

個人でも貢献できる海岸の環境改善の一つがゴミ拾いです。海岸は、海のゴミの集積地といえます。海岸付近は、上記のように、非常に生物多様性の高い場所ですから、生物が受ける影響を減らすには、やはり海岸付近は、綺麗にするべき優先順位が高い場所であるといえます。海鳥やウミガメなど、海に生息する生き物が、誤ってゴミを食べ、それが排泄されずに胃や腸に溜まることで死亡したり、ゴミに引っかかって身動きが取れなくなって死亡する事例が多数報告されています。海岸でゴミを拾うことによって、そのような生物への直接的な影響を減らすことができます。また、美しい海岸は、人々に海に訪れたいという感情を起こさせます。海を訪ね、海への興味関心を持つことが、海の保全の第一歩です。多くの人が訪れたいと思える海を維持していくことは、海へ関心を寄せる人を増やし、保全活動の機運を高めることに繋がります。