三毛猫には、オスがとても少ないということは、ご存知の方もおられるかもしれません。今回は、どうして三毛猫のオスは少ないのかについて、解説したいと思います。
まず、三毛猫とは、白、黒、茶色(オレンジ)の三色をもった猫すべてのことを指します。つまり、定義上はどんな種類の猫でも白、黒、茶の3色の色があれば三毛猫です。狭義には、三色を持った日本猫のみをさすこともあるようです。三毛猫は、日本では比較的、当たり前に見られますが、世界的には珍しいようです。
三毛猫のオスが生まれる確率は、1/30000と言われ、非常に珍しいことが昔から知られてきました。どうして、三毛猫にはオスが少ないのでしょうか?それには、猫の色を決める遺伝子が関係しています。
猫の色を決める遺伝子は、全部で9種類あるのですが、そのうちのオレンジ(茶色)の毛色の発現をつかさどるO遺伝子座は、性染色体であるX染色体上にしかありません。メスの性染色体はXXですので、メスはX染色体を2つ持っていますが、オスの性染色体はXYなのでX染色体は1つしかありません。また、O遺伝子座には、顕性(優性)遺伝子O、潜性(劣性)遺伝子oの2種類の遺伝子のどちらかが入ることができます。一つのX染色体につき、一つのO遺伝子座を持つので、性染色体がXXのメスは、2つの遺伝子をOO、Oo、ooの三種類のパターンでもつことができますが、性染色体がXYのオスは1つのO遺伝子座にOかoのパターンでしかもっていません。O遺伝子は、オレンジの毛を発現させますが、o遺伝子は、別の遺伝子の作用を介して黒の毛を発現させます。つまり、オスは、通常Oかoのどちらか一つしか持っていないので、オレンジか黒のどちらか一方しか発現できないのです。つまり、オスでは三毛が珍しいというより、黒とオレンジを同時に発現するのが珍しいのです。ちなみに、メスの色についても、優性遺伝について知っている方でしたら、Ooを持っていてもどうせ優性のOがあるせいで、オレンジが発現するじゃないかと思われるかもしれません。
メスの三毛ができることを理解するためには、もう一つ、発生学の知識が必要です。それは、生まれる前、胎児の胚発生のある時期に、母親由来のX染色体を使うのか、父親由来のX染色体を使うのかを決める時期があるということです。母親の卵、父親の精子から、X染色体を1セットずつ貰っているわけですから、どちらか片方だけ使える状態であれば良いのです。X染色体上の遺伝子は、胎児のまだ細胞数が少ない段階で、父母どちら由来の遺伝子を使うのかを細胞ごとに決めてしまい、その後その決定を引き継いだまま細胞分裂を繰り返し、生涯片方の遺伝子のみを使い続けます。つまり、三毛猫のオレンジの部分は、O遺伝子をもったX染色体が選択され、黒い部分はo遺伝子をもったX染色体が選択されているのです。ちなみに白い部分は、別の遺伝子であるS遺伝子が関与しており、優性のS遺伝子をホモかヘテロで持っていれば、白い班の部分ができるようです。
余談ですが、この父母どちら由来の遺伝子を使うのかについての決定は、胚発生のかなり初期の段階で行われ、その後細胞分裂を繰り返してもその決定が変更されることはないため、同じ色の部分は同じ細胞由来の可能性が高いということです。一つの身体でも場所によって、細胞内の使っている遺伝子が異なっていることがネコの毛色を通して目にみえてわかるのです。
ここまでで、オスの三毛猫が生まれることがほとんど無いことを説明しました。
では、オスの三毛猫が存在するのはなぜでしょうか。オスの三毛猫は、ほとんどの場合、X性染色体を一本多くもったXXY遺伝子型をもっています。Y遺伝子も持っているため、外見はオスですが、生殖機能をもたないものがほとんどのようです。人ではこのような遺伝子型の人は、クラインフェルター症候群と呼ばれ、500〜1000人に1人くらいの割合で生まれるようです。このような遺伝子型をもったオスネコはX染色体を2本持っているため、O遺伝子もo遺伝子も持つことが可能なのです。
つまり、オスの三毛猫は、遺伝子異常が起こった時のみ現れ得るため珍しいのです。