餓えるホッキョクグマと地球温暖化の関係

2018年9月10日 ALL生物
https://ja.wikipedia.org

地球温暖化でホッキョクグマの生息数が減少しているという話はどこかで聞いたことがある方も多いかもしれません。ですが、どうして地球温暖化によってホッキョクグマが減少するのかを説明できる人は少ないのではないでしょうか。
今回は、地球温暖化がホッキョクグマとどのように関わっているのかちょっと詳しくお話します。

ホッキョクグマの生息地

ホッキョクグマは、現在約26000頭生息していると推定されています。
生息域は、以下の範囲であり、ホッキョクグマの名の通り、北極周辺にしか生息していません。

ホッキョクグマ生息地

ホッキョクグマ生息地

生息域からわかるように、ホッキョクグマは、海に面したところにしか生息していません。海の中を泳ぐのに特化したヒレや流線型の体を持っているわけでもないにもかかわらず、海の近くでしか生きられないのはなぜなのでしょう。それは彼らの食べ物とその食べ物を得る方法とが関係しています。

ホッキョクグマの食べ物とハンティング方法

多くのクマの仲間は雑食性ですが、熱帯地域では、餌を果実に大きく依存しています。日本に生息するツキノワグマも植物性のものを食べることがほとんどで、狩りはほとんど行いません。

果実を頬張るマレールグマ

果実を頬張るマレールグマ

しかし、緯度が高くなると、果物だけでは、巨体を維持することができなくなります。そもそも寒い地域では、樹木の果実生産量が少ないため十分な果実が見つからないのです。その上、体の熱放散の影響を小さくするために、寒い地域では、恒温動物は体サイズが大きくなるという法則(ベルクマンの法則)があり、クマの仲間は、見事にその法則に従っています。そのため、ホッキョクグマは、他のどの地域のクマより大きな体サイズをもっています。その巨体を維持するために、より多くの食べ物が必要になります。植物性の餌資源がほとんどない北極に生きるホッキョクグマは、餌資源の大半を肉食性のものに頼るしかありません。緯度に応じて餌が変わりますが、クマの体型が著しく変わるわけではありません。ハンティングに特化したネコ科の動物のように早く走れるしなやかな体も無ければ、オオカミのように長距離を走り、集団で狩りをする技術もありません。ハンティングに特化しているとは言い難い体で、食べ物のほとんどをハンティングによって得なければならないのです。そんなホッキョクグマは、海氷の上で、アザラシを狩ります。

アザラシを食べるホッキョクグマ

アザラシを食べるホッキョクグマ

アザラシは海氷の上で子育てをします。逃げ足の遅いアザラシの子供は、海氷の上で見つかります。また、ホッキョクグマは、海氷に穴をあけ、アザラシが息継ぎをするために出てきたところを襲うという方法でハンティングを行います。これこそが獲物を追いかけることなく捕まえることができる技であり、ハンティングに特化した体をもたないホッキョクグマの武器なのです。しかし、この技は、海氷がないと使うことができません。獲物が海の中に潜ってしまうと、泳ぎの能力の差は歴然としており、全くアザラシには太刀打ちできません。泳ぐことに特化した体をもっているわけではないにもかかわらず、食べ物が海の生き物であり、その食べ物をハンティングする場所も海上なのです。しかし、海上といっても、歩けるくらい分厚い氷が張った海でないとダメなのです。

by USFWS Headquarters

飢餓により個体数が減るホッキョクグマ

近年、ホッキョクグマの個体数は、減少しており、やせ細ったホッキョクグマが、度々撮影されています。

ホッキョクグマが減少している原因は、地球温暖化であると言われています。
ホッキョクグマの生息地域では、海氷が夏期に溶けて無くなっている期間が、年々長くなっています。ホッキョクグマは、海氷が溶けている時期には、地表に上がりますが、生存に十分な食べ物を地上で見つけることができないため、冬期にアザラシを食べることによって蓄えた脂肪を使ってその間をしのぎます。その食べ物が極端に取れなくなる時期が、年々長くなっているために、ホッキョクグマの多くが餓死する事態になっているのです。
以上が、ホッキョクグマが現在、個体数を激減させている原因です。
たとえどんなに過酷な環境であっても、その環境を変化させることは、その環境に適応してきた動物の生存を危うくするということを思い知らされる状況です。私達は熱帯のジャングルのような生物多様性の高い楽園のような場所を直接破壊して、動植物の生息地を奪うだけではなく、遠く離れた場所で生きる生物種をも、直接手を下すこともなく消し去ろうとしているのです。