アナグマと似た動物との違い
アナグマという名前を聞いてどのような動物を想像するでしょうか。上の写真のような動物をちゃんと想像したでしょうか。
アナグマは名前にクマが付いていますが、クマの仲間ではなく、イタチ科の動物です。
秋になると冬に備えて、脂肪をたっぷり溜め込むため、かなりずんぐりむっくりした体型になります。そのため、クマと比べて随分小型であるにも関わらず、ツキノワグマの目撃情報のいくつかは、アナグマを見間違えたものではないかと言われています。
少し動物に興味のある人なら、タヌキみたいな動物を想像したかもしれません。昔から、日本ではタヌキとアナグマは混同されてきました。体サイズも色も生息環境も似ていたのが原因だと思われますが、タヌキは、イヌ科の動物ですから、系統的には随分離れています。
アナグマはイタチ科ですが、イタチが体重500gほどしかないのに対し、アナグマは、10kgを超えるものもおり、ずんぐりむっくりとしているため、イタチと見間違えることはまずありません。しかし、イタチ同様、胴の長さに比べ足が短く、走り方はやはりイタチにそっくりです。
アナグマは、穴を掘って巣を作ります。アナグマが掘って使った後の巣を、タヌキやハクビシンなど同じようなサイズの食肉目の動物が使うことが報告されています。また、アナグマがタヌキのため糞場で糞をしているのもカメラトラップで撮影されたことがあります。アナグマとタヌキは、見た目が似ているだけでなく、意外と関わり合いのある生活をしているのかもしれません。
アナグマの食べ物
食べ物は、タヌキと同様雑食ではありますが、土を掘るのに適した前足と、大きめの鼻を使って土中のミミズを掘って食べる頻度が高いようです。私の山奥の調査地では、タヌキの糞には、甲虫の殻や、動物の毛、果実の種が頻繁に含まれていますが、アナグマの糞からは、タヌキの糞で見られた残渣はほとんど確認されず、泥が多く混じっております。
アナグマ属の分布
ニホンアナグ(水色)は、本州のほぼ全域に生息しているますが、北海道には生息していません。世界にアナグマ属の種は、他に2種、ヨーロッパアナグマ(緑)と、アジアアナグマ(茶)がおり、ユーラシア大陸の広範囲に分布しています。比較的気温が低い地域に適応した動物といえます。
ある雨の日のアナグマ親子
京都のある山奥で寝泊まりして調査を行っていた6月の大雨の晩のことでした。大雨の音にまぎれて、聞いたこともない鳴き声が外から聞こえてきました。鳥のヒナのような、カエルのような、とにかく、大きな声です。
ちょうど私は、一人きりで大きな研究用宿舎に泊まっておりました。真っ暗な山に囲まれ、何もなくともなんだか心細い状況です。その上に得体の知れない鳴き声が聞こえてきます。曲がりなりにも動物の研究者の端くれなもんで、好奇心が勝ち、大雨の中、傘をさし、懐中電灯を持って声の主を探しに出かけました。大きな声は、誰もいない隣の建物付近からします。軒下に、小さなアナグマが2匹。小さくてもしっかりアナグマ柄です。もっと近寄って見ようとした矢先、その5,6倍はあるアナグマが、こちらをめがけて突進してきます。後退りするも、怒ったアナグマは、ブーッ、ブーッと威嚇しながら追いかけてきます。ものすごい剣幕です。4mくらい離れてやっと威嚇がやみました。私を追い払った後、親アナグマは大急ぎで子アナグマを一匹ずつ咥え、留守の人家の物置に運んで行きました。
おそらく子育てしていた巣穴が大雨で浸水したのだと思われます。夜中に引っ越しを余儀なくされて、まだ歩くことも出来ない子アナグマを運んで移動せざるを得なくなったのでしょう。本来、野生動物の子供は、捕食者に狙われやすいため、静かに身を隠しているものです。あれほどの大声をあげれば、捕食者に見つかってしまうでしょうし、現に私も声でその存在に気づきました。まだ歩くことも出来ない子アナグマが巣穴から出されるのは、捕食者に引きずりだされた時、つまり、親を大声で呼ばないといけないときくらいなのかもしれません。巣穴が浸水するという緊急事態で、親が運び出したのにも関わらず、子供は本能のままに鳴いたのでしょう。
外にいる時よりは聞こえにくくなったが、人家に入った後もしばらく聞こえていたアナグマの子供の声。