カラスといえば、ゴミを荒らす。朝からうるさい。人を攻撃する。縁起が悪い。と一般的には、悪いイメージのオンパレードです。実際、迷惑なことをたくさんしでかす生物ですが、人の近くにいるからこそ最も観察しやすい生物でもあります。また、鳥の中でも際立った頭の良さを持ち、興味深く、面白い行動をたくさんするところもカラス観察の魅力の一つです。今回は、身近にいる2種類のカラス、ハシボソガラスとハシブトガラスの違いについてお話したいと思います。
ハシボソガラスとハシブトガラスの見分け方
日本に広く分布するカラスである、ハシボソガラスとハシブトガラスは、ともにカラス科カラス属に属する鳥です。
ハシボソガラスとハシブトガラスの棲み分けと行動的違い
ハシボソガラスもハシブトガラスも街中で見られる種ですが、行動や好む場所には、差があります。
人が住んでいない環境では、ハシブトガラスが立体的な構造が発達した樹林を好み、ハシボソガラスは、河川敷や原っぱなどの平面的な場所を好んで住むという棲み分けがあるようです。ハシブトガラスが、あまり地面を歩かない、食べ物を上に運んでから食べるという行動をする一方、ハシボソガラスは、地面をよく歩き、地面で食べ物を食べるという行動をするのも、もともと自然環境で暮らしていた時の習性を引き継いでいるからかもしれません。
ところで、街中で見られるカラスは、ハシブトガラスとハシボソガラスの二種類がいると書きましたが、街中でも、棲み分けあります。ハシボソガラスは、河川敷や農耕地など比較的開けたところでよく見られるのに対し、ハシブトガラスは、高層ビル街や住宅地などで見られます。ハシボソガラスは、人が近くに住んでいても、河川工事をしても、農耕をしても、もともと暮らしていた土地を使い続けた結果、人の居住区付近で住むことになったということになります。一方、森林に生息していたハシブトガラスは、森林に加え、もとの生息環境とは大きく異なるビル街にまで、その生息地を拡大したと言えます。
ハシブトガラスはどうしてビル街に進出できたのか。
ハシブトガラスが、それまで住んでいた環境と大きく異なるビル街や住宅地に住めるようになった原因として、もっとも支持されている要因は、ゴミ袋が透明になったということです。1980年代ごろに、ゴミの分別のために、日本の各地で透明のビニール袋を使うようになりました。そのことによって、ハシブトガラスは、ゴミの中に魅力的な食べ物が含まれていることを学習、もしくは、効率よくゴミの中から食べ物を探索することができるようになりました。ゴミを効率よく利用できるようになったハシブトガラスは、ゴミを漁ることで十分都会で生きていけるだけの食べ物を得ることができるようになり、街中で個体数を増やし始めました。ハシボソガラスにとっても生ゴミの中には魅力的な食べ物が含まれているのですが、ハシボソガラスはハシブトガラスよりも少し体が小さいため、ハシブトガラスと戦うと負けてしまい、結局、ほとんどのゴミ捨て場は、ハシブトガラスに占領されるような状態になることが多いようです。
街中では、カラスは疎まれることが多いですが、人が生み出した無駄によって、おびき寄せられた生き物だということです。つまり、街中のカラスの存在は、我々人間の食資源利用のロスを象徴する存在といえます。
参考文献: 樋口広芳・黒沢令子 (2010) 『カラスの自然史 【系統から遊び行動まで】』 北海道大学出版会