竹とはイネ科タケ亜科に属する常緑性の多年生草本の総称で、マダケやモウソウチクなどさまざまな種を含みます。
昔から日本人の暮らしに根付いている竹は、食材、家具、建材、楽器、他にも最近では竹の繊維を加工した食器など、多方面で利用されてきました。
この身近にありふれた竹ですが、種類によっては数十年~百年に一度、一斉に花を咲かせて枯れるという珍しい生態(「一回繁殖性」といいます)をもつことが知られています。
(写真:モウソウチク、バイオーム撮影)
この記事の目次
謎に包まれた竹の一斉開花現象
竹の開花は、目立った前触れもなく始まります。それまで数十年から百年ほど成長を続けてきた竹林が一斉に花を咲かせ、しかも遠く離れた竹林が時を示し合わせたように同時期に開花します。俗に「一斉開花」と呼ばれる現象です。
竹の一斉開花のタイミングは、ハチクなどの一部の種類では、古文書の記録から60年や120年に一度であると考えられており、開花後に実をつけ、枯れてしまうことが知られています(ほとんど実をつけない種類もいます)。このように開花後に一斉に枯死することから、国内では昔から不吉の前兆などと言われていたそうですが、なぜ開花するまでの時間がそれほどに長いのか、なぜ広域にわたり同時期に咲くのかなど、未だ多くの謎に包まれています。
竹の一斉開花に立ち会おう
そんな竹の一斉開花現象が、実は今、日本各地で起きていることをご存知でしたか?
例えば、ハチク(淡竹)は、直近で1908年前後に開花しています。その後、開花記録がなかったのですが、2000年代に入ってから少数の開花が報告されています。2010年代半ばから目立ち始め、広域にわたり順次開花しはじめており、おおよその開花ピークは2020年代と考えられているのです。園芸種として出回っているキンメイチク(金明竹)は、2019年春に突如各地で開花し始めました。
今まさに、竹の一斉開花の現象に立ち会う貴重な機会が訪れています。
竹の研究者にとっては、開花現象を解き明かす千載一遇のチャンスが訪れたため、精力的に情報が集められています(例:竹林景観ネットワークHP「タケ類の開花情報」)。
すでに200件以上の情報が集まっているそうですが、日本全国に散らばる竹の開花情報を研究者だけで収集することは難しいため、広く一般の方々からも収集したいということで、バイオームにも声がかかりました。
6種類の竹の開花クエスト
クエスト対象種は、ここ数年で開花が目立つようになった4種の竹(ハチク、クロチク、キンメイチク、トウチク)と身近な2種の竹(マダケ、モウソウチク)です。
この中で、モウソウチクは一斉開花性を示さず竹林の一部分が開花する種類として知られています。また、トウチクは一斉開花性を示すかどうかよく分かっていない種類です。これらの種類では、開花個体を見つけるのは難しいかもしれませんが、身近によく見られる種類ですので、今回のクエストでも対象種に選抜しました。
その他の種類の竹は今回は対象としておりませんが、咲いていることもありますので、見つけた場合はぜひ投稿してみてください。
バイオームアプリで撮影した竹の開花情報は、竹の研究に活かされます。
世紀の大イベントとも言える竹の一斉開花の謎に迫りましょう!
注:ただし、撮影のために私有地に許可なく侵入することはやめましょう。
<監修:京都大学大学院地球環境学堂・学舎/農学研究科 柴田昌三教授>
<協力:京都大学大学院農学研究科 博士後期課程 小林慧人>
竹の花の比較
赤い丸=竹の花を示す。
黄色い丸=雄しべを示す。開花中は雄しべを観察できる。
ハチクの花(写真提供:小林慧人)
クロチクの花(写真提供:小林慧人)
キンメイチクの花(写真提供:小林慧人)
マダケの花(写真提供:小林慧人)
(開花した後の画像 マダケはキンメイチクの母種であり花の形態は同じ)
モウソウチクの花(写真提供:小林慧人)
(画像は開花後の花序ですでに褐色化 雄しべは脱離)
トウチクの花(写真提供:小林慧人)
クエスト対象6種類(ハチク、クロチク、マダケ、キンメイチク、モウソウチク、トウチク)
判別フロー
比較表
※比較表-参考画像:
*1 稈(かん)の節から出る枝の本数の比較(写真提供:小林慧人)
図1:マダケ属 2本
図2:トウチク属 3本以上
*2 タケノコの皮の特徴(写真提供:小林慧人)
図3:マダケ類 黒い斑紋あり
図4:ハチク類 斑紋なし
*3 稈の色の比較(写真提供:小林慧人)
図5:キンメイチク 稈(黄色)芽溝(緑色)
図6:クロチク 稈(2年生以上で黒紫色)
参考:
日本のタケ亜科植物 = Bambusoideae in Japan : 原色植物分類図鑑(小林幹夫, 2017)
クエスト対象種の詳細説明
ハチク(淡竹)
Phyllostachys nigra var. henonis
(写真提供:小林慧人)
マダケ属の1種。直径3~10cm、最大で高さ15m程度になる大型の種類です。原産地は不明であり、国内では北海道から九州まで全国的に、国外では中国や韓国といった国々において広く生育しています。
古来より人々の生活に欠かせない竹であり、農作業用の材料や食用のタケノコ、茶筅(ちゃせん)、竹籠などの形で利用されてきました。また、竹籠などの製品としても重宝され、日本独特の竹文化を作ってきました。
- 他の種との見分け方
モウソウチクやマダケと同様に大型の竹ですが、ハチクは3種の中ではもっとも小ぶりな竹です。稈(かん:草本では茎、樹木では幹に当たる部分のこと)の節上の隆起線が2本である点でモウソウチク(1本)と見分けられます。また、若い稈の色が淡い緑色であること、タケノコの皮に黒い斑紋が出ない特徴などにより、マダケと見分けられます。
- 開花情報
古文書の記録から開花周期は60年または120年と考えられており、直近では1908年前後に日本各地で開花したという記録が残っています。日本国内では2000年代に入ってから数少ないものの開花が確認され、2010年代半ばより各地で開花報道が目立つようになってきています。1908年の60年後の1968年前後には日本各地での開花記録が残っておらず、仮に120年後とすると、2020年代半ば頃が開花の見られる頻度がピークを迎えると予想されます。これから各地で本種の開花が盛んに見られるようになるかもしれません。花は春の終わりから初夏にかけてよく見られます。
参考:
120年に一度?ハチク開花 関・円福寺(中日新聞Web 2019年5月10日)
(現在はページが見られなくなっています。)
クロチク(黒竹)
Phyllostachys nigra var. nigra
(写真提供:小林慧人)
マダケ属ハチクの園芸品種です。地上に出てきて1年目の夏の季節では稈の部分はくすんだ淡い緑色なのですが、秋以降に黒紫色へと変色することから、クロチクと呼ばれています。観賞用として庭先に植栽されることの多い竹です。
- 他の種との見分け方
名前の通り、竹の稈が黒紫色をしているのがクロチクの特徴です。ハチクの園芸品種であり、花の形態は母種であるハチクと同じですが、背丈はハチクよりも低く5mに満たないものが多いです。
- 開花情報
ハチクと同様、20世紀初頭に開花期録が残っています。現在、各地に出回り植栽されているクロチクの株元は不明であることが多く、およそ1世紀前に咲いた株と同じなのかについてはよく分かっていません。2018年頃より開花が目立ち、ニュースで報道されるようになっています。
参考:
120年に1度?クロチク開花 京都(京都新聞 2018年08月14日付)
竹の花開花…数十年に1度 大阪市の庭園で24本一斉に(毎日新聞 2018年6月6日付)
マダケ(真竹)
Phyllostachys bambusoides
(写真提供:小林慧人)
マダケ属の竹の1種で、漢字では真竹と書きます。原産地はハチクと同様に不明であり、中国大陸でも生育しています。タケノコが1日に121cm伸びた記録もある力強い竹です。古来より、人々の生活に欠かせない竹として、竹籠などの生活資材や河川の堤防の役割を担い各地に植栽されてきました。現在は管理放棄されたマダケ藪が多く、荒れており景観的に美しくないため、今後、持続的な有効利用を考えていくべき竹の1種です。
- 他の種との見分け方
モウソウチクやハチクと同様に大型の竹ですが、稈の節上の隆起線が2本である点でモウソウチク(1本)と見分けられます。また、若い稈の色が濃い緑色であること、タケノコの皮に黒い斑紋が出ること、葉の基部の毛が放射状に顕著であることなどにより、ハチクと見分けられます。
- 開花情報
過去の開花記録により、120年周期で開花すると推定されており、直近では1950~1970年頃、日本全域にわたり数年にわたり順次一斉に開花した記録が残っています。最近は開花期と外れているようですが、ごく稀に花が見られることもあります。竹林全体レベルで咲くという咲き方ではなく、竹林の一部が開花するという咲き方のようです。
参考:
竹と親しむ広場で竹の花が咲きました(江戸川区役所HP 2019/01/31)
キンメイチク(金明竹)
Phyllostachys bambusoides f. Castillonis
(写真提供:小林慧人)
マダケ属マダケの園芸品種です。背丈は5mに満たないことが多く、稈の色は黄色で、芽溝(がこう:稈に縦方向に入るくぼみのこと)部が緑色となってあらわれます。その見た目の美しさから、鑑賞用として人気が高く、現在では庭に植栽されることが多いです。
- 他の種との見分け方
稈の高さは5mよりも低く、稈と枝が黄色をしているのが分かりやすい特徴です。また、葉には白色の縞模様が見られるものがあります。
- 開花情報
1963年~1968年、日本のほとんど全てのキンメイチクが一斉に開花したという記録が残っています。2018年の秋頃より各地でキンメイチクの開花が目立つようになってきましたが、今回咲いている株が前回いつ咲いたのかということはまだ分かっていません。
参考:
好古園 キンメイチクが開花しました(姫路市 2018年4月記者発表資料)
久屋大通庭園 キンメイチクが開花しました!(久屋大通庭園フラリエ 庭園事務所:2019/05/07)
キンメイチク開花~牧野植物園(四国カルストで花道楽 2019/1/11(金) 午前 6:00)
岡村はた編(1991)原色日本園芸竹笹総図説、はあと出版
モウソウチク(孟宗竹)
Phyllostachys pubescens
(写真提供:小林慧人)
マダケ属の竹の1種で背丈が20mを超えることもある大型の竹です。原産地は中国で、日本には江戸時代に導入されたと言われています。それ以降、食用タケノコの利用などの目的で日本各地で植栽されており、現在は日本人にとってもっとも馴染み深い種類の竹です。京都府の乙訓地域や福岡県の合馬地域などでは、年間を通してタケノコ畑として管理されており、春季にタケノコを各地へ出荷している地域もあります。ただ、現在は管理放棄されたモウソウチク藪も多くなっており、時には隣接する森林へ拡大してゆくことも知られています。今後、持続的な有効利用を考えていくべき竹の1種です。
- 他の種との見分け方
国内に生育する竹の中でもっとも大きな竹です。タケノコの出現時期は関西では4月〜GW頃であり、マダケやハチクよりも出る時期が早いです。ハチクやマダケとは、稈の最大高さの中間以下では稈の節の隆起線が1本であることにより見分けることができます。
- 開花情報
モウソウチクは日本に導入されてから約300年が経ちますが、竹林全体が一斉に開花する現象は確認されていません。竹林の一部の稈のみが咲く特徴が知られています。結実することも知られており、20世紀前半に採取され、播種(はしゅ:種まきのこと)された芽生えが各地の圃場に移植された後、67年を経て一斉に開花した例が2例あります。そのため、67年周期で開花すると噂されることもありますが、まだ確かなことは分かっていません。
参考:
珍しい竹の花、咲いていた 土佐で調査(朝日新聞DIGITAL 2018/09/25)
小林慧人・小林剛(2019)高知県土佐市のモウソウチク林分で生じた高密度の局所開花、森林応用研究28:11-15.
トウチク(唐竹)
Sinobambusa tootsik
(写真提供:小林慧人)
トウチク属の竹で、日本では同属で1種類のみが知られています。日本で生育が確認されている竹の中で最も節間長が長く、60~80cmに達することもあります。竹としては珍しく、庭園では枝が短く刈られていることが多い種です。
- 他の種との見分け方
稈の節より枝が3本以上出ていることが、他のクエスト対象種との大きな違いの1つになりますので、稈から出る枝の分枝の仕方に注目しましょう(2年生以降の稈では、分枝の数がより多くなることがあります)。また、稈に芽溝が見られにくく、少しざらつき、節間が長い点もこの種類の特徴です。
- 開花情報
およそ1世紀前に開花記録が残っていますが、その後、記録はほとんど残っていません。注目度が低いためか、開花に気づかれないことも一因で情報が不足している種類といえます。2018年頃よりSNS上で本種の開花情報が「竹の花」として投稿されているケースが目立ちはじめています。一斉開花性を示すかどうかは、今後で明らかになるかもしれません。
開花した竹と見間違えやすい例 〜テングス(天狗巣)病を患った竹〜
竹はしばしばテングス病(*)という症状を患っています。この病気にかかった竹では、枝が房状に異常分枝して鳥の巣状となります。葉が少なくなり光合成機能が低下しますので、竹の衰退につながると知られています。一見して花のようにも見えてしまうため、開花した竹と勘違いするケースが後を絶ちません。
*テングス病は、クエストの対象6種の中では、ハチク・クロチク・キンメイチク・マダケでしばしば見られる症状です(モウソウチクでは稀にしか見られません)。
テングス病にかかったマダケ。鳥の巣状になっている。(写真提供:小林慧人)
開花した竹では、雄しべが垂れ下がっていることが観察できます。竹はイネ科の植物であるため、開花の様子はイネの花に似ていますね。垂れ下がった雄しべが確認できるかどうかが、竹の花であるかどうかの判定ポイントになります。
ハチクの花。白い糸とその先につく黄色の袋が雄しべ(写真提供:小林慧人)
イネの花 Photo by Nandukambalapally [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)]