綺麗な昆虫といえば、多くの人がタマムシを思いつくほど、タマムシは、日本では有名な昆虫です。ですが、生きたタマムシに出会うことは、ほとんど無いのではないでしょうか。存在は知っているけど、身近ではない。今回は、そんなタマムシについてのお話です。
タマムシってどんな生き物?
タマムシ科の昆虫は、世界では、約2万種が記録されており、全種が昼行性で植物を食べます。また、金属光沢を持っている種が多いです。日本では、200種以上が記録されています。一般的にタマムシと呼ばれている種は、Chrysochroa fulgidissimaという種で、ヤマトタマムシという和名があてられることがありますが、日本だけではなく、台湾、韓国、中国中南部にも分布しています。日本では、本州、四国、九州、沖縄で見られ、北海道では見られません。
タマムシの生態
タマムシの卵は、エノキやケヤキ、サクラの枯死木に産み付けられ、幼虫は、その朽木を食べて3年ほどかけて成長します。このことから朽木が3年以内に処理されてしまうような森林だと、タマムシは世代交代が難しくなります。成虫も、エノキやケヤキなどの木の葉を食べますが、成虫になってからの寿命は1ヶ月ほどしかありません。成虫が出てくるのは、7月-8月頃です。成虫の交尾も日中にエノキやケヤキの木の高いところで行われます。一生を通じて、エノキやケヤキを利用して生きているようです。タマムシを見たいときは、エノキやケヤキの大木の高いところを真夏の日中に探してみると見つかるかもしれません。
どうしてタマムシは綺麗なのか。
タマムシの羽は、地の色は緑色なのですが、見る角度によって緑に光ったり赤に光ったりします。これは、構造色と呼ばれ、実際に赤い色がついているのではなく、タマムシの場合は、透明な層が何枚も重なることによって生み出される色です。このような層が重なることによってできる構造色を持つ生き物は、タマムシだけではありません。アワビの貝殻の内側やオオゴマダラの蛹、サンマやイワシ、ネオンテトラなどにもみられます。一方、溝や突起があることによって構造色ができることもあります。CDが角度によって色が変わって見えたり、モルフォチョウやクジャク、カワセミが光って見えるのは、微細な溝や突起によって出来た構造色によるものです。構造色が様々な色に見えるのは、光が多重の層や、微細な溝や突起によって干渉し合い、その干渉の仕方が場所によって異なるためです。
タマムシは、何のために綺麗なのか。
タマムシは、昔から工芸品に使われるなど、その綺麗な色で人を魅了してきました。ですが、タマムシが人を喜ばせても何の意味もありません。タマムシがタマムシ色をしているタマムシにとっての利点としては、2つの仮説があります。一つは、キラキラ光る羽が交尾行動に役立っているのではないかという説です。華美な見た目をもった生き物は、たいていオスだけが華美であり、オスはメスに選んでもらうために華美になったと考えられています。有名なのは、クジャクやグッピーなどです。しかし、タマムシは、オスもメスも華美であるため、それらの生物とは異なります。タマムシの交尾の様子を観察した研究によると、タマムシは、ケヤキの高いところを飛び回り、オスがメスに飛びつくようにして交尾を始めることがわかりました。また、メスの羽を置いておいただけでも、その色を見てオスのタマムシが集まってくることも明らかになりました。このことから、単純に、キラキラ光るタマムシの色は、オスにとって見つけやすい色なのではないかと考えられました。真夏の太陽が出ている昼間に交尾行動が盛んに行われるのも、このキラキラ光る体がより目立つためだと考えれば、説明できます。
ですが、この説だけだと、派手なのはメスだけで良いのではないかということになります。タマムシがタマムシ色であるもう一つの利点は、その色が鳥に嫌われるため、鳥に食べられにくいということです。CDが鳥よけに使われるように、タマムシの色も、鳥が嫌うと考えられています。鳥にこの性質があることから、タマムシは、白昼堂々木の上の目立つところでたくさん集まっていても、鳥に狙われることが少ないのではないかと考えられています。また、このことからメスだけでなく、オスもタマムシ色をしていることに利点があるといえます。