秋にやって来るアカトンボの意外と知らないお話

2019年9月24日 ALL生物
マユタテアカネ

アカトンボが飛んでいるのを見て、秋を感じる季節が近づいてきました。小さい頃住んでいた田舎では、秋頃になると突如アカトンボが群を成して現れ、よく私は網を振り回してアカトンボをたくさん捕って遊んでいました。今回は、そんな身近な秋のいきもの、アカトンボのちょっぴりへぇ〜となるお話です。

アカトンボとは?

トンボ科アカネ属の属するトンボを総称してアカトンボと呼ぶことが多いですが、アカネ属以外の赤いトンボや、秋に群れになって飛ぶ黄色っぽい色のウスバキトンボ(ウスバキトンボ属)がアカトンボと呼ばれることもあります。アカネ属のトンボは、日本では21種が知られていますが、ナニワトンボのように、体色の赤くないトンボもいます。

アカトンボはどうして赤いのか?

アキアカネ

アキアカネのメス Photo by Alpsdake [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

アカトンボと言っても、真っ赤になるのは、成熟したオスだけです。未成熟のオスや、メスは、黄色っぽい色をしています。オスは、成熟するに従い、赤くなります。この色の変化は、オモクロームという色素の酸化還元反応によって起こるということが、明らかになりました (Futahashi et al. 2012)。オモクロームは、還元型になると赤色、酸化型になると黄色を呈します。つまり、未成熟のオスやメスの体内では、オモクロームが酸化型になっており、成熟オスでは、還元型になっています。オモクロームの酸化還元反応は、可逆的です。黄色の未成熟オスやメスでも、還元剤を注入すると、体色が赤色に変化します。オスの体内では、抗酸化物質がメスに比べ多く存在し、その抗酸化物質を同定した結果、還元型のオモクロームそのものがその抗酸化物質であるということが判明しました。

今まで、オスの赤い色は、婚姻色であり、成熟したオスであることのアピールとして使われていると考えられて来ました。しかし、還元型オモクローム色素(赤色の色素)を多く持つことは、日向で縄張りを守る際に受ける紫外線による酸化ストレスを軽減する効果があるのではないかという新たな仮説も出てきました。

秋に突然群れになって現れるアキアカネの謎

アキアカネのオス Photo by Kropsoq [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

アキアカネは、平地では、秋になると突如群れを成して現れます。そのため、羽化自体が秋に一斉に起こっているとなんとなく思っている人も多いかもしれません。しかし、すべてのアキアカネは羽化を5月から6月頃に済ませます。アキアカネは、成虫になると標高の高い地域で7月から8月を過ごします。アキアカネは、体温の排熱能力が低く、気温が30℃を超えると、生存が難しくなるため、真夏の低地で活動することがでず、涼しいところに移動する必要があると考えられています。そのため酷暑の夏には、高標高に移動しますが、冷夏には、それほど高標高には移動しないことが知られています。高所で夏を過ごしたアキアカネは、気温が下がってきた秋ごろに平地に移動し、少し開けた広場などで群れをなします。こうして私達は、ある日突然現れたアキアカネの大群に出会うことになるのです。アキアカネは平地で繁殖行動を行い、卵を水面や水際の泥に産み付けます。成虫は、11月頃まで生きます。卵はそのままの状態で泥の中で越冬し、春にヤゴになります。

ちなみに、ナツアカネは、アキアカネのような大移動は行わず、成虫の間中平地にいるため、夏でも平地でみることができます。また、夏にだけ見られるというわけでもなく、成虫の姿でいる期間は、アキアカネと同じです。

 

参考文献:

Futahashi, R., Kurita, R., Mano, H., & Fukatsu, T. (2012). Redox alters yellow dragonflies into red. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 109, 12626–12631.