ヒガンバナで真っ赤に染まった土手を見て、秋が来たことを実感する人も多いかもしれません。また、ヒガンバナが土手一面に咲く景色は、日本の田舎の風景として親しまれることも多いですが、実はヒガンバナは、日本在来の植物ではありません。今回は、そんなヒガンバナのお話です。
ヒガンバナとは?
ヒガンバナ科の多年草です。別名、曼珠沙華(マンジュシャゲ、マンジュシャカ)とも言いますが、この名は、サンスクリット語が由来です。中国原産の植物で、稲作の伝来時に日本に入ってきたと考えられています。
種を付けないヒガンバナ
田畑の土手や河原などに、見事に咲くヒガンバナですが、実は、日本で咲いているヒガンバナは、すべて実をつけることはありません。というのは、日本に侵入しているヒガンバナは、すべて3倍体であるためです。現在、日本国内での分布拡大は、ほとんどの場合、株分けによるものだと考えられます。
ヒガンバナの葉はどこにあるの?
ヒガンバナというと、誰しも立派な赤い花を連想すると思いますが、葉は?と言われると、ピンと来ない人も多いのではないでしょうか。ですが、ヒガンバナも葉をつけないわけではありません。花を咲かせる時期と葉を出す時期が異なっているために、あまり認識されたことがないだけです。ヒガンバナは、花が終わった後の晩秋に長さ30-50cmほどの細長い葉を出します。葉は、冬の間は見ることができますが、春になると枯れます。ヒガンバナは、他の植物があまり繁茂しない冬の間に日光を浴びて栄養を鱗茎に蓄えるという、他の植物とは少し異なった戦略をとっています。毒を持つヒガンバナ
ヒガンバナは全草に毒を持ちます。特に球根である鱗茎には多くの毒を含み、誤って食べた場合、吐き気や下痢を起こし、重症の場合には、中枢神経が麻痺して死に至る場合もあります。しかし、有毒成分は、水溶性であるため、戦時中は、デンプンが豊富な鱗茎を水に浸して無毒化し食用にすることがあったようです。
どうして田畑に群生しているの?
ヒガンバナは日本では種子を作れないため、分布を拡大するためには、誰かに有毒な球根を運んでもらう必要がありますが、それでもヒガンバナは、日本の各地で広く見られます。どうしてこれほど広まったかというと、有益な植物として、積極的に田畑の土手に植えられたからです。ヒガンバナの毒を嫌ってネズミが畑に入ってこない、もしくは、ヒガンバナの生える場所は、その毒のためにミミズが減り、それを食べるモグラも減るためモグラによって土手に穴をあけられることを防ぐことができると言われ、農家の人が進んで土手に植えたという文献が残っています。ですが、本当に効果があるのかどうかについては、あまり確かめられていません。また、毒抜きをすると食用となることから、救荒作物として植えられたとも言われています。