どうして干し柿は甘くなるの?~甘柿・渋柿の秘密~

2018年12月17日 ALL生物

柿が実る季節になりました。私の実家の柿は渋柿だったので、せっかく実っているのにすぐに食べられないことを毎年残念に思っていました。しかし、ご存知のように渋柿は、干すと甘くなり美味しく食べることができます。どうして、渋柿は干すと甘くなるのでしょうか。そもそも甘い柿と渋い柿はなにが違うのでしょう。

柿とは?

柿
カキノキの現種は、東アジア固有種のDiospyros kakiであり、中国の長江周辺に自生しています。現在は品種改良により1000以上の品種が存在していると言われています。食用の栽培品種のカキは、六倍体です。カキは渋柿と甘柿に大きく別れますが、甘柿は渋柿の突然変異種と考えられています。

渋柿はどうして渋いのか。

タンニン性物質が苦味を感じさせる成分です。
この成分が水に溶ける場合、つまり可溶性の場合は、口に入れると唾液に溶けるため渋みを感じますが、タンニンが不溶性に変化すると渋みを感じなくなります。

渋柿が渋いことの生態学的意義

果実は、動物に種子散布をしてもらうために、動物に好んで食べてもらえるような果実を作ります。しかし、種子がまだ発芽能力を持たないような成長段階の果実を食べられてしまうと、植物にとってはただの損失です。そのため、熟すまでは、渋みのあるタンニンで果実が食べられるのを防ぎ、種子が発芽可能な状態に準備できたころに、動物に好まれるような味に変化させます。見た目も目立たない緑色からオレンジ色に変化させます。したがって、渋柿も、実がジュルジュルに柔らかくなる頃には、タンニンが不溶性に変わり渋さが抜けます。つまり、甘柿の品種は、種子散布のベストタイミングより早く、タンニンの効力をなくしてしまった、うっかり家系といえます。

甘柿はどうして甘いのか。

柿
ここまでのお話から、甘柿はタンニンが含まれていないのか、タンニンが不溶化されているのか、どちらだろうと思われた方もいるかも知れません。実は、甘柿には、タンニンが含まれるものの、それが不溶性であるために渋みがない不完全甘柿と、そもそもタンニンをほとんど含まない完全甘柿の2種類に分けられます。
完全甘柿は、柿の実の成熟過程でタンニンの蓄積が止まるため、タンニン濃度が低く維持されます。これらの品種は、タンニンを蓄積する能力を欠損したDNA変異体です。
不完全甘柿は、タンニンの蓄積は起こりますが、種子でアセトアルデヒドが生産され、タンニンとくっつきます。アセトアルデヒドとくっついたタンニンは不溶化し、食べても渋みを感じなくなります。

また、渋柿も2つに分けられます。
完全渋柿は、種子があってもなくてもジュルジュルに柔らかくなるまで渋いままの品種です。
不完全渋柿は、種子から生産されるアセトアルデヒドによって、熟柿になる前から、種子の周りの果肉の渋が抜ける品種です。
つまり、渋柿は、種があってもなくても、熟柿になる前にはタンニンがほとんど不溶化されない完全渋柿と、種の周りの果肉のみが不溶化される不完全渋柿の2つに分かれます。

渋柿を渋抜きするとどうして甘くなるのか。

柿
カキをアルコールにつけておくと、カキの実の中でアルコールがアセトアルデヒドに変わり、そのアセトアルデヒドがタンニンとくっつき、不溶化します。また、炭酸ガスを充満させたところにカキを入れておくと、カキが酸素不足になり、アセトアルデヒドが生成され、タンニンが不溶化します。干し柿は、皮を剥くことによって、カキ表面に皮膜ができ、果実の細胞が呼吸できなくなることにより、アセトアルデヒドが生成され、タンニンが不溶化します。

つまり、人が行うカキの渋抜きも、タンニンを取り除いたり分解したりしているわけではなく、タンニンを不溶化して、渋みを感じないようにしています。

渋みがなくなると、甘みが感じられるようになります。渋抜きの処理前と処理後で甘みは変わっていませんが、渋みを感じなくなったため、甘く感じるようになります。

加熱で可溶性に戻るタンニン

このタンニンは、熱を加えるとまた、可溶性に戻るようです。この現象は、「渋戻り」と言われています。ですので、ジャムを作る際は、そもそもタンニンが少ししか作られないような突然変異を起こした、完全甘柿の品種を使うと良いです。

[参考文献]
神崎真哉. 2016. 柿の起源と品種分化. 日本食品科学工学会誌 63: 328–330.