
一見何の関係もなさそうな生き物同士が、実は相互に大きな影響を与えている、生態学者はときにそんな発見をします。ハリガネムシが、カマドウマに寄生して行動を操作することが、川の生態系を変化させるほどインパクトをもたらすことが、近年の研究で明らかになりました。今回は、そんな思いもよらない、ハリガネムシと川の生き物との関係についてのお話です。
ハリガネムシとは?

ハリガネムシの一種 Photo by Bildspende von D. Andreas Schmidt-Rhaesa, Veröffentlichung unter GNU FDL — Necrophorus 15:31, 8. Sep 2004 (CEST) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons
ハリガネムシの生活史

バッタ目から出てきたハリガネムシの一種 Photo by Alastair Rae from flickr
水中で交尾、産卵し、幼生はカゲロウやトビケラの幼虫に食べられることによって、それらの水生昆虫(待機宿主)の中にまず入ります。水生昆虫の体内で、ハリガネムシはシストと呼ばれる厚い膜を被った休眠状態になります。それらの水生昆虫が、成虫になって陸上に上がり、カマドウマやカマキリなどに食べられることによって、ハリガネムシのシストは、カマドウマやカマキリ(終宿主)の体内に取り入れられます。ハリガネムシに寄生されたカマドウマやカマキリは、行動が操作され、結果的に、それらの虫は川に飛び込みます。ハリガネムシに寄生され、水に飛び込もうとしているカマドウマやカマキリの脳内では、ハリガネムシが作ったと考えられる特有のタンパク質が、いくつか発現していることが確認されています。ハリガネムシは、川に落ちたカマドウマやカマキリのお腹から、すぐさま脱出し、水中で交尾、産卵を行います。
ハリガネムシはどのように河川生態系に影響を与えるのか?

ヤマメ Photo by Σ64 [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons
ハリガネムシが河川生態系に与える効果を示した一連の研究は、ある一種の小さな生物が、他の様々な生物に大きな影響を及ぼすことで、実は生態系に多大な影響を与えていることを示す、生態学的に非常に面白い例といえます。同時に、ある種を減少や絶滅させたときの生態系に対するインパクトは、計り知れないということを物語っています。
引用文献:
Sato, T., Watanabe, K., Kanaiwa, M., Niizuma, Y., Harada, Y., & Lafferty, K. D. (2011). Nematomorph parasites drive energy flow through a riparian ecosystem. Ecology, 92, 201–207.
Sato, T., Egusa, T., Fukushima, K., Oda, T., Ohte, N., Tokuchi, N., … Lafferty, K. D. (2012). Nematomorph parasites indirectly alter the food web and ecosystem function of streams through behavioural manipulation of their cricket hosts. Ecology Letters, 15, 786–793.