メスの卵と同種のオスの精子が受精して、卵が発生する。ギンブナは、この常識を覆すような生殖様式を持っています。今回は、そんな驚きの生態をもつギンブナの生殖方法についてのお話です。
ギンブナとは?
ギンブナ(Carassius auratus subsp. langsdorfii)は、コイ目コイ科フナ属の魚です。池や沼などの止水や流れが穏やかな河川に生息します。動物プランクトンや、付着藻類などを食べる雑食性の魚です。中国、台湾、朝鮮半島、日本に分布します。ギンブナは、ほとんどがメスであり、場所によって差があるようですが、オスは、ほとんど見つからない地域もあるようです。
ギンブナの繁殖様式
ギンブナは、無性生殖の一つである雌性発生をすることで知られています。雌性発生は、精子からオスの遺伝情報を取り込むこと無く卵が発生しますが、発生を開始させるための刺激にオスの精子が必要です。つまり、雌性発生でできる子供は、メスのクローンですが、オスがいないと卵が発生できないという、なんとも中途半端な無性生殖が雌性発生です。驚くべきことに、ギンブナの場合、卵の発生に使われる精子が、ギンブナのオスのものだけではなく、別のフナ類の魚(キンブナ、ナガブナ、ゲンゴロウブナなど)のものでも良いという報告があります。オスの精子の遺伝情報は使わないため、精子の遺伝情報が別種のものであっても次世代に何の影響も与えません。そのため、それで発生できるのであれば問題はないのですが、やはり、別種のオスの精子を使うケースは稀です。交尾を行う多くの生き物について、交尾器の形が種間で異なります。その結果、物理的に交尾が困難になることで、種間の交尾は妨げられることが多いです。しかし、魚類の場合、生み出された卵に精子を振りかけることで受精が完了することが多いです。そのため、別種の精子を使って、卵を発生させるという仕組みが、交尾を行う生物に比べて獲得されやすいものと考えられます。といっても、精子も資源ですから、ギンブナの卵に精子を振りかけてしまった別種の魚のオスは、無駄に資源を使ってしまったことになります。メスにしてみれば、わざわざ同種のオスを探す手間が省けて、かつ、自分の遺伝子を高確率で残せる方法といえます。また、自分のクローンばかり作って、集団内がメスばかりになってしまったとしても、クローンの子供もまた、別種のオスの精子を使うことができるので、オスがいなくても困るということもありません。ですが、雌性発生でできた子供はすべてクローンであるため、環境変動が起こると、全滅しやすいというデメリットがあると考えられます。
ギンブナのメスには、3倍体や4倍体のものが含まれており、そういったメスは、クローンの子しか作ることができない場合が多いですが、2倍体のメスの場合は、稀に存在する2倍体のオスを見つけることができれば、有性生殖をすることも可能なようです。